第12章 唯一の友
宇那手が走って屋敷の入り口へ戻ると、冨岡の方から駆け寄って来た。
「随分時間が掛かったな」
「申し訳ございません」
「何を話していた? いや、その前に、不死川と何があった? 俺に頭突きをかまして、お前を死なせるなと言われた」
「ちょっと、お説教を」
宇那手は、肩を竦めた。
「お館様のすぐ隣で、鬼の血液が傷口に入る様な危険を冒されたので、その事について。それから、傷の手当てをさせていただきました」
「⋯⋯あいつは稀血だ。自分の血で鬼を酔わせて、戦っている。自傷は何時もの事だ」
「そうかもしれませんが」
宇那手は、俯いた。
「何時ものことだと、他人が切り捨てて良いのでしょうか? 例えそうだとしても、全く痛みを感じないわけではないでしょう。勿論、あの場ではお館様の事も案じていましたが、不死川様のことも⋯⋯」
今の彼女を見たら、誰も鬼殺隊員とは思わないだろう。ただの心優しい娘だ。
冨岡は、宇那手の頭に手を置いた。
「お館様とは何の話をしていた? かなり長い時間待たされたが──」
「例の端切れの件と、取り止めのない雑談を」
宇那手は、師範が言葉を切った事に気付かずにニコニコ答えた。
「報酬として、私の喧しい鴉を交換してくださるそうです。これで師範との将棋で、邪魔をされる事はありません。以上です」
「火憐」
背後から、突然優しく呼ばれ、宇那手は驚いて振り返った。産屋敷が、娘に手を引かれ、見送りに来ていたのだ。
「義勇には話しても構わないよ」
「いいえ」
宇那手は、素早く膝を着き、答えた。
「師範のためにも、お館様のためにも、私の胸に留めておきます」