第75章 歩み寄り
「砂糖⋯⋯? いや、もっとふんわりとした、優しい、甘い匂いです。俺と話している時にも、確かに花の様な匂いはしましたけれど。うーん⋯⋯なんて言うんでしょう? しつこくは無いんですが、ふんわり包み込む様な、独特の匂いがしていました。きっと、冨岡さんに対する愛情は、何か特別な物なんじゃないかと思います」
「⋯⋯そうか」
冨岡は、満足気に頷くと、立ち上がった。
「早く怪我を治せ。火憐の言う事を良く聞け」
「はい!」
「冨岡さん、どちらへ?」
胡蝶が訊ねると、冨岡は何時もの怜悧な表情に戻った。
「担当地区へ。任務を疎かにすると、厳しく叱責されるからな。あいつにも、あいつの弟子たちにも」
「その前に、少し火憐さんの訓練を見て行かれませんか? 多分、鬼ごっこをしていると思うんですが、彼女、独特の動きをしますから」
「分かった」
「俺も、見て良いですか!」
炭治郎が手を挙げた。
「静かにしていますから! お願いします!」
「構いませんよ」
胡蝶は炭治郎に手を貸して立たせた。三人は中庭へ移動した。