第75章 歩み寄り
「ええ?! 不死川さんが?!」
炭治郎は身を乗り出して咽せた。
「竈門君、落ち着いて」
宇那手は湯呑みを差し出しながら、背中を摩った。
「お伝えしていませんでしたね。胡蝶さん、実弥さん、悲鳴嶼さん、冨岡さんは、珠世さんの存在を容認してくださっています。他の柱も、辛抱強く話せば、おそらく受け入れてくださるはず。冨岡さんに限らず、私たちは、圧倒的に会話と配慮が不足していたんです」
彼女は冨岡に視線を戻し、頬を膨らめた。
「それから! つい先日の出来事ですよ!! 実弥さんが私を好いてくださっている事はご存知ですよね?! 貴方は自分の大切な人が、故意に傷付けられたらどう思いますか?! 怒りが湧きませんか?! 実弥さんは、貴方が私を傷付けた事に腹を立てていました!! 襖を三枚も突き破ったんですよ!!」
「あ⋯⋯あれは、俺が悪かった。不死川にも謝れば良いのか?!」
「駄目です!」
宇那手は、叫んでいた。彼女は力なく炭治郎のベッドに縋った。
「竈門君、助けてー!」
「む⋯⋯無茶です」
「だよね」
(恋敵に、なんて言うつもりなのよ。これだけ酷い事をしても、別れないっていう事実を突き付けて、余計に反感を買うじゃない!)
「あらあら〜」
部屋に入って来た胡蝶が、項垂れている宇那手と炭治郎、一見ボーッとしている冨岡を見て笑った。
「これはどういう状況でしょう? 冨岡さん、また嫌われる様な事を言ったんですか?」
痛恨の一撃だった。冨岡は不貞腐れた様にベッドに転がると、猫の様に身体を丸めて後ろを向いてしまった。
「はい、竈門君お薬です」
「ありがとうございます」
炭治郎は素直に薬湯を受け取って飲み干した。
「ところで、冨岡さんは、何故こちらに?」
「怪我をして来たんです」
宇那手は肩を竦めて苦笑した。
「犬に手を噛まれたそうです」
「あらあら⋯⋯ふふ⋯⋯あははは」
胡蝶は声を上げて笑った。宇那手も、炭治郎も驚いた。常に微笑みを浮かべている彼女が、初めて見せた心からの笑顔に思えたのだ。
「ふふふ⋯⋯おかしい⋯⋯。犬を⋯⋯手配したのは私です。不死川さんに頼まれて。火憐さんが怒らない程度に、穏便な仕返しがしたいと持ち掛けられて⋯⋯。あははは」
「胡蝶。お前──」