第75章 歩み寄り
「まあ、お前に嫌われていなければ、それで良い」
冨岡はサラリと言ってのけたが、宇那手は背中に汗をかいていた。炭治郎がいるすぐ傍で、そんな思わせぶりな事を言われるとは想定外だったのだ。
「はっきり言いますけれど、実弥さんと伊黒さんは、貴方の事が嫌いだと思いますよ。心配です、冨岡さん。お二人と、連携を取って戦えるか、気掛かりです」
「どうしたら、仲良くなれる? お前は柱全員と仲が良いな」
「貴方に教えて貰ったんですけれど」
宇那手は、処置を終えて、しょうもない弟を見る様な視線を冨岡に向けた。
「言葉や行動の裏にある、本当の想いを汲み取ること。自分の想いを伝えること。私、貴方のお陰で自信を持って言えます。どんな人でも愛する事が出来ると。人を愛する事が、私の誇りです」
「不死川に好きだと言えば良いのか?」
「え?!」
「は?!」
宇那手と炭治郎は同時に奇声を発していた。炭治郎はむせ返ってしまったので、宇那手は慌てて抱き起こして背中を叩いてやった。
「竈門君、君も大変ですね。冨岡さんが兄貴分とは⋯⋯」
「いや⋯⋯あの⋯⋯火憐さんは、どうやって意思疎通を図っているんですか?!」
「しつこく言葉を引き出す以外に、方法がありません」
宇那手は盛大に溜息を吐き、冨岡と向き直った。
「義勇さん。貴方は伊黒さんと実弥さんを、本当に好きだと思っていますか?」
「いや」
「ええ?!」
口を挟んだ炭治郎を、宇那手は笑顔で睨み、再び冨岡と向き合った。
「嘘を吐いてもバレますよ。どうして、お二人の事が嫌いなんですか?」
「別に嫌いではない。あっちが勝手に嫌って来る。伊黒に関しては、悪口を言われて悲しい⋯⋯」
子供の様に肩を落としてしまった冨岡を見て、宇那手はクスクスと笑った。
「理由も無いのに、人は誰かを嫌ったりはしません。私の知り得る限りの事ですが、まずは、竈門君の件。柱は皆、鬼に並々ならぬ嫌悪を抱いている。それは貴方も同じ。同じである事を伝えず、あくまで例外であると、事情を説明しなかった貴方が悪い。実弥さんは、きちんとお話をしたら、人を喰った事のある、珠世さんの事を理解してくださいましたよ」