第75章 歩み寄り
「君は警戒心が無さすぎる。そんな所に置いておいて、誰かが目にしたらどうするの? 貰った手紙は、目を通したらすぐに燃やしなさい」
「すみません! 後でしのぶさんにお願い──」
「今、私に頼みなさい」
「お願いします!!」
「分かりました。預かります」
そう言って手紙を手に取り、宇那手は努力して穏やかな表情を繕った。
「さて、本題です。禰豆子さんに、私の血を飲ませる件、同意していただけますか? 貴方は珠世さんから、どの様に説明を受けましたか?」
「宇那手さんは無臭の稀血で、禰豆子の力をもっと引き出せるって。⋯⋯だけど、もし⋯⋯もし禰豆子が、人の血の味を覚えて、血を欲する様になったらって考えると⋯⋯」
「全く。君が手紙をその辺に放置する様な子だから、中途半端な情報しか与えられないんですよ」
宇那手は溜息を吐いた。
「私の血は、人間だった頃の記憶を蘇らせる力があるんです。それは、鬼舞辻無惨にも有効だった。禰豆子さんが、家族への愛情を糧に力を引き出しているのなら、きっと助けになります。貴方の事を、もっと鮮明に思い出すかもしれない。自我を取り戻せるかもしれない。現状、鱗滝様の暗示に頼り切りで、不安に思いませんか? もっと、彼女自身の強い想いを引き出せれば、血鬼術を強化出来る。もし⋯⋯もし、あの子を守る人がいなくなっても、自分で自分を守り、人を傷付けずに戦う事が出来る。何時か、彼女自身が人間に戻る方法を見つけ出せるかもしれない」
「宇那手さんは⋯⋯宇那手さんでも、先の事を考えるんですか?」
炭治郎は、今にも泣きそうな表情で俯いた。宇那手は頷いた。
「常に、考えています。遺書も預けてあります。何時死んでもおかしくない。柱なら、この先、上弦や鬼舞辻との戦闘は避けられません。死ぬ確率の方が高い。貴方は遺書を書いていないのですか?」
「⋯⋯書いていません」
炭治郎は、布団をぎゅっと握った。
「俺は、絶対に負けるわけには行かないから。死ぬわけには行かない。でも⋯⋯そうですよね。何度も、死んでもおかしくない状況に居合わせた。その度に柱に守られて⋯⋯。駄目なのかなあ⋯⋯。誰一人失わずに勝つ事なんて、考えたら、駄目なんでしょうか?」