第75章 歩み寄り
「その話は⋯⋯師範から聞きました。貴女⋯⋯宇那手様は悪くない、と。でも⋯⋯だけど⋯⋯説明出来ない何かが、此処に⋯⋯」
カナヲは胸を抑えた。宇那手は優しく、彼女の頭に手を置いた。
「怒りです。それは、私に対する憎しみです。貴女は胡蝶さんを実の姉の様に慕い、愛していたから、危害を加えそうになった私に、怒りを覚えているんです。悪い感情ではありません。きっと貴女を突き動かしているのは、憎しみではありません。それよりも大きな愛情です。その気持ちを大切にしてください」
「分からないです!」
カナヲは立ち上がって叫んでいた。全身に汗を掻き、震えている。
「分からない⋯⋯。貴女は、私に嫌われても、気にならないって事ですか?!」
「嫌われたら、悲しい。出来れば好きになって貰いたい」
宇那手は、眉尻を下げて微笑んだ。
「でも、それが難しくて、理由が”愛”なら、仕方ないと思えます。私は人であれ、物であれ、何かを深く愛する人が好き。貴女が私を嫌いになっても、私は好きです。私の守りたい人の中には、炭治郎君や、貴女も含まれています」
そう言って、彼女も立ち上がった。
「では、そろそろ行きますね。竈門君とも、少しお話がしたいので」
宇那手の背中を目にした瞬間、カナヲは目眩を覚えた。似ていたのだ。纏う雰囲気も、所作も、艶やかな黒髪も、カナエに。
「待って!!」
カナヲは本能的に呼び止めていた。しかし、中々言葉が続かない。
「⋯⋯ありがとうてございます! 炭治郎を助けてくれて、ありがとうございます!!」
それが精一杯だった。宇那手は、一度だけ振り返り、頷いた。
彼女は病室へ向かい、今度は炭治郎と向き合った。
「竈門君、体調はどうですか?」
「はい! もう二、三日休めば動けるって、しのぶさんも言っていました!!」
「良かった。貴方には、稽古を付けて貰いたかったし、一つ提案があるの。珠世さんから、手紙は届いた?」
「はい。⋯⋯しのぶさんが預かってくれていて。驚きました。まさか協力関係にあったなんて」
炭治郎は、まだぎこちない動作で、机の上に置いてあった手紙を取った。宇那手は、目を釣り上げた。