第75章 歩み寄り
炭治郎が目を覚まし、機能回復訓練を受けられる様になるまでの七日間は、宇那手にとって、とても意味のある時間だった。
胡蝶の継子である、カナヲと話す機会が出来たのだ。彼女は柱に準ずる実力を持ちながら、他者と連携を取る事が極めて難しい隊士であった。
「カナヲちゃん。少しお話をしませんか?」
縁側に掛けている彼女に声を掛けると、微かに警戒と、憎しみの匂いが漂った。かつて、宇那手が胡蝶へ向けていた感情と、良く似た物だ。
「いえ、やっぱりやめましょう。今日は私の話を聞いてください」
人の胸の内⋯⋯本心を探るのに、自分の心を閉ざしていては、どうにもならない。
「私には、命を懸けて守りたい人がいます。かつては、私を保護し、傍に置き、心を与えてくださった方ですが、今は同じ階級になり、私が守る立場にあります。⋯⋯私は、優先順位を決めています。その人が身を置くための鬼殺隊が最優先。次がその人自身。自分の望む物全てを守り、私自身も生き残れるとは、考えていません。その様な甘い考えでは、勝つ事が出来ない。だから、私は私を犠牲にします」
「⋯⋯どうしてですか?」
カナヲは、混乱しながらも言葉を探った。
「命を懸けて守りたい物⋯⋯。それを守って死んでしまったら、きっと周りの人は悲しくなる。動揺する」
「それが分かっていて、私は私を犠牲にするんです。遺された人が、幾ら打ちのめされても、きっと立ち直れると信じて。怒りや悲しみを糧に強くなってくれるのなら、本望です。だから、貴女に謝らないといけない。⋯⋯胡蝶さんが毒を飲んでいる事は知っていますよね? その行為には、意味があります。私自身が、死ぬつもりで戦うと言っておきながら、同じ覚悟を持った人を止める権利なんてありません。きっと、どんな言葉も通じない。ただ、貴女には強くなって貰いたい。心を強く持って、生き延びて欲しい」
「私は⋯⋯私は⋯⋯」
カナヲは汗を掻いていた。それが、心底動揺している時の姿だと聞いていたので、宇那手は顔を顰めた。
「カナヲちゃん。私は胡蝶さんに怨みはありません。あの時、私も指示を貰えなければ動けない人間でした。胡蝶さんは、炭治郎君と禰豆子さんの事情を知らなかったから、首を切ろうとした。師範⋯⋯冨岡さんの命令で胡蝶さんを取り押さえました」