第74章 那田蜘蛛山の記憶※
「うーん。でも、まるっきし自分の頭で考えられない様には、思えないんですよね」
胡蝶は、カナヲの振る舞いを思い返しながら、首を傾げた。
「心が無くても、意思はありますね。貴方を守るという強固な意思が」
「だから、余計に手に負え無い。指示を出さなければ、俺にとって最善かつ、あいつにとって最悪の選択をする」
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「火憐、お前は変わったんだな。今のお前なら、信頼出来る。お前にとって最善の選択が出来るはずだ」
「どうしたんですか、唐突に」
「俺はもう、お前に命令出来る立場じゃない。寧ろ、お前の指示が必要だ」
冨岡は、観念して自分の羽織を宇那手に纏わせた。
「俺はどうすれば良い? お前がいなくなったら、その後どう生きれば良い? お前の望む様にしたい」
「全て、ご自分で判断してください」
宇那手は冨岡に寄り掛かって答えた。
「最善と思う選択を。大丈夫です。貴方なら、大丈夫。だから、落ち着いてください。私は波一つ無い水面の様な貴方が大好きです」
「⋯⋯乱暴にしてすまなかった。だが、煽ったお前も悪い。あんな風に迫られては、大抵の男は手を出す。頼むからやめてくれ。大切に出来なくなる」
冨岡は視線を逸らした。
「少し残念です」
宇那手は、性懲りも無く、頬を赤らめて囁いた。
「私は、少し乱暴なくらいが⋯⋯。すみません。どうやら、馬鹿になってしまった様です。あの⋯⋯」
「何が言いたい? ハッキリしろ」
「私の事、これ以上嫌いになりませんか?」
「お前を嫌っていると言った覚えは無い。早くしろ。そうでなければ、俺は最低な男になる」
冨岡は、宇那手の手首をぎゅっと掴んだ。すぐにでも押し倒して、気をやるまで抱き潰してしまいたかった。しかし、必死に欲を飲み込んで、彼女の言葉を待った。
「義勇さん。私⋯⋯貴方に激しくされると、身体が熱くなるんです。意地の悪い事を言われると⋯⋯私、心臓が痛いほど暴れるんです。こんなのおかしいですよね? はしたないですよね? でも貴方に滅茶苦茶にされたい!!」