第74章 那田蜘蛛山の記憶※
その時、丁度伝令役の鴉が、竈門炭治郎と禰豆子を拘束して本部へ連れ帰る様叫んだ。それから、水柱の継子も柱合会議に参列する様に、と。
「宇那手、離してやれ」
冨岡の言葉を聞き、宇那手はようやく胡蝶を解放した。
「驚きました、冨岡さん。この子が貴方の継子ですか?」
胡蝶は、あくまで穏やかな口調で訊ねた。彼女は冨岡の行動に難色を示したものの、冨岡自身に対しては悪意を抱いていなかったのだ。
「胡蝶。頼みがある」
冨岡が唐突に口を開くと、彼女は笑みを深めた。
「いきなりなんですか。人の質問にもまともに答えずに」
「こいつは俺の命令に従った。階級が上の、柱の命令は絶対だ。不問にしてくれ」
「まあ、その言い分は正しいですが──」
「正しくありません」
宇那手が割り込んだ。
「私は、師範の命に従いたいと思ったから、そうしたのです。私の意思です。師範は私の全てです。この方をお守りする為なら、なんでもします。隊律違反の件で、師範が不利益を被るのでしたら、全て私に罪を着せて構いません。柱は、私よりも価値のある存在ですから」
「先に、南へ向かっていろ。隠に案内を受けて、本部へ向かう様に。余計な事は話すな。俺も後から行く」
冨岡は短く返した。宇那手は小さく頷き、その場を去った。
胡蝶は絶句していた。言葉も配慮も足りない冨岡が、どうやって少女の信頼を得たのか、理解出来なかったのだ。
しかし、同時に気になる事もあった。
「冨岡さん。あの子、大丈夫ですか? なんというか⋯⋯人であって、人で無い様な⋯⋯」
「⋯⋯心が無い様に感じる」
冨岡は、珍しく、少し悩んでから言葉を発した。
「俺が死ねと命じたら、本当に死にかねない。現状、上手く”使う”以外に、扱い方が分からない」