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【鬼滅の刃】継ぐ子の役割

第74章 那田蜘蛛山の記憶※


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 今更、着いて来た事を咎めた所で意味が無いと、冨岡は理解していた。

 そもそも、那田蜘蛛山での任務に向かう様にと本部から指示されていたにも関わらず、冨岡の一存で宇那手は待機していたのだ。

 冨岡が、竈門炭治郎を、胡蝶しのぶの刃から庇ったため、事が拗れた。

 宇那手は表情にこそ出さなかったものの、胡蝶に対して嫌悪感を抱いていた。

 冨岡は炭治郎に逃げろと指示し、状況をどう打破するか考えていた。「そんなんだから、みんなに嫌われるんですよ」という言葉もかなり引っ掛かっていたが、それ以上に宇那手をどう動かすかに意識を取られていた。

 宇那手が、冨岡の意思に賛同する事は、分かり切っていた。これまで、彼女は、どれほど危険な任務であろうと、冨岡の命を最優先に行動して来た。

「冨岡さん。その子も巻き込むおつもりですか?」

 胡蝶は穏やかな声で牽制して来た。

「隊律違反ですよ? 柱である貴方は、多少目を瞑って貰えるかもしれませんが──」

「師範」

 宇那手は、日輪刀を抜き、夜の闇より深い黒い瞳で冨岡を見詰めた。彼女の目には、冨岡しか映っていなかった。

 対して胡蝶は、目を見開いた。自分と殆ど上背の変わらない少女が、鬼の首を斬る為の刀を持っていた事に驚いたのだ。しかも、気配が尋常ではない。柱のそれに匹敵する闘志を感じた。

 冨岡は、逡巡の末、口を開いた。

「胡蝶を取り押さえろ」

 ──命令だ。

 その言葉は、唯一宇那手が目を輝かせる力を持っていた。彼女の力を限界まで引き出す、呪いの様な言葉だった。

 宇那手は、一瞬困惑した表情を浮かべた。これまでは、「殺せ」「撤退」以外の命令を受けた事が無かったからだ。しかし、行動に迷いは出さず、即座に動いた。

 彼女は信じ難い俊敏な動きで、胡蝶を羽交い締めにし、地面に押し倒した。

「取り押さえました」

「そのまま待て。俺はあっちを追う」

「師範、一つ宜しいですか?」

 急を要する時に、宇那手が質問するのは、珍しい事だった。だから、冨岡も耳を傾けた。

「あの少年を庇う事で、師範が危険に曝される可能性はありませんか? もしそうなら、私は貴方を止めます」

「無い。寧ろ死なせれば、咎められる」
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