第73章 死の淵
「浅井はどのくらいで此処へ来られる?!」
愈史郎は不死川に詰め寄った。
「三時間は掛かるだろうなァ」
「保ちますか、珠世様」
「保たせます」
珠世はそう答え、悲しげな目を不死川に向けた。
「あの方は、どうしていらっしゃるのですか? 水柱の冨岡義勇さん。何故この方は、この屋敷に?」
「鬼にする話じゃねェ」
不死川はぶっきらぼうに答え、腰を下ろした。
「⋯⋯実弥さん」
宇那手は、薄ら目を開けて、掠れた声で呼び掛けた。
「冨岡さんに⋯⋯伝えてください。貴方を⋯⋯許します、と」
「やめろ! それじゃあまるで遺言だァ!」
「遺言です」
彼女は必死に微笑んだ。
「ごめんなさい、とお伝えください。私が悪かった⋯⋯と。心から⋯⋯愛して──」
「火憐さん!!」
珠世は、血相を変えて呼び掛けた。
「愈史郎、この方を起こして! 水を飲ませます! 脈が⋯⋯弱くなって⋯⋯。火憐さん!」
「火憐、しっかりしろ!!」
愈史郎は宇那手を抱き起こして、軽く揺さぶった。
懸命な二人の姿を見て、不死川は己の無力さを呪った。鬼を斬ることしか能が無い事に、今更ながら気付かされた。
思えば、父親が母親を殴っていた時もそうだ。肝心な時に、何も出来なかった。
「⋯⋯あの」
善逸が、遠慮がちに顔を出した。
「日輪刀を刺したら駄目⋯⋯ですよね」
「テメェ何を──」
「日輪刀は、素材が特殊なんですよね?! 普通の刀で鬼の首を斬っても、殺せないけれど、この刀なら──」
「試すしかありません」
珠世は首を縦に振った。
「このままでは、どのみち数時間で死んでしまう。私に出来ることは、輸血、薬の調合、そして、鬼舞辻の呪いを外した私の血を与える事で、この方を鬼にする事だけです。ですが⋯⋯ですが、血液が足りません。刀で刺すのなら、出来るだけ血の巡りが良い場所でなければならない。出血が止まらなければ⋯⋯」