第12章 唯一の友
「貰って良いの?!」
甘露寺は、目をキラキラさせて、身を乗り出した。他の柱とは全く違う雰囲気に、宇那手は笑ってしまいそうになった。
「私は、あまり食べ物を受け付けない体質なのです。一個頂ければ十分ですので、残りはどうぞ」
「ありがとうございまーす!!」
甘露寺は、涙を引っ込め、一番大きな桜餅を選んで取った。彼女の雰囲気は、鮭大根を目にした冨岡と良く似ていた。好物なのだろう。
「あの、甘露寺様。とても素敵な髪色をされていますね? 染めていらっしゃるのですか?」
「違う、違う。地毛なのよ。桜餅が大好きで、食べ続けていたら、こうなってしまったの」
「⋯⋯」
宇那手は、驚けない自分に驚いた。先日、雷に打たれて髪色が黄色になった少年に会ったばかりなので、その程度の非常識は容易に受け入れられた。
「甘露寺様は師範の事をお好きですか?」
「はい! だって、冨岡さん、可愛いじゃない! 何時も一人ぼっちで」
「っ!!」
宇那手は、餅を喉に詰まらせ掛けた。甘露時本人は、悪口を言う気など毛頭無いのだろうが、冨岡が聞いたら相当ショックを受けそうな事を、平然と言った。
「あ! でも、火憐ちゃんは、冨岡さんを慕っているんだよね! 大丈夫! 取りません!! 桜餅を頂きましたし」
つまり、冨岡は桜餅と同等か、それ以下らしい。
「甘露寺様は、他の柱の方とは雰囲気が違います。優しく、穏やかです。内に秘めた怒りも感じられません。ほっとします」
「私は、殊更鬼に恨みが無いから」
甘露寺は、二つ目の桜餅を取り、反対の手で宇那手の頭を撫でた。
「さっき言ってたけれど、食べられ無いの? 食べなきゃ力は出ないよ?」
「鬼を⋯⋯肉を斬った感触が、どうしても手から離れなくて。食事が苦痛です。身体を維持する為に、無理矢理食べていますが、特に肉を食べるのは苦手です」
しかし、それでも、ここ最近は苦痛が和らいだ気がする。口数は少なくとも、冨岡と向き合っている事で、食べるという行為に集中せずに済むからだ。
「甘露寺様。師範は貴女の事を嫌ってはいません。誰のことも嫌ってはいないのです。それを言葉や態度に示さないだけで。⋯⋯どうか、悪く思わないでください」