第12章 唯一の友
青空の元で、ようやく宇那手は深呼吸出来た。産屋敷の脆い一面を垣間見たとは言え、相手が自分の雇主である事には変わらず、緊張を拭えなかった。
そして、来た時よりも、多くの秘密を抱えて屋敷を出る事になるとは、想像もしていなかったのだ。
「火憐さん」
気が付くと、すぐ傍に若い女性が立っていた。彼女はにこやかに宇那手へと近付き、小さく頭を下げた。
「主人が貴女に深く感謝をしておりました。近頃は、体調も優れず、思い悩む姿も見ておりましたが⋯⋯」
「奥様」
宇那手は、慌てて膝を着いた。
「私に対する礼は不要です。こちらをどうぞ」
あまねは、桜餅とお茶を載せた盆を差し出した。
「庭で休んでください。食べ終わったら、そのままで構いませんよ」
「ありがとうございます」
「また、いらしてくださいね。では、気を遣わせてしまいますので、私は失礼します」
彼女はスッと屋敷の奥の方へ消えて行った。
宇那手は少し歩き、先日柱合会議の行われた場所まで行くと、軒先に腰を下ろした。と、同時にかなり異質な気配を感じて、周囲を見渡した。
桜色の髪色の女性がジーッと自分を見詰めていた。
「甘露寺様⋯⋯」
宇那手が、疲れ切った頭でぼんやり思い返していると、彼女はおずおずと歩み寄って来た。何故か泣きそうな表情をしている。
「どうなさいました?!」
「⋯⋯冨岡さんに、また無視されちゃって。⋯⋯私、嫌われてるのかな?」
そう訊ねた柱は、到底剣士には見えなかった。何処からどう見ても、恋する乙女だ。
「貴女は冨岡さんの継子の方だよね? どうしたら、あの方と仲良く出来るのかな?」
「⋯⋯私は、返事をくれるまで、付き纏って話し掛け続けました」
一年前、任務で冨岡と再会した後、宇那手は三日三晩彼を付け回して、継子にして欲しいと懇願したのだ。四日目の夜明けに、冨岡が根負けした。
ふと、宇那手は、甘露寺の視線が桜餅に向いている事に気が付いた。
「あの、良ければ食べていただけませんか?」