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【鬼滅の刃】継ぐ子の役割

第73章 死の淵


「⋯⋯」

 宇那手は、指で沈黙を促し、考えた。

(実弥さんの屋敷が割れてしまう⋯⋯。でも、今の私からは、鬼舞辻の気配が⋯⋯。胡蝶さんは頼れない⋯⋯。簪の解毒剤は冨岡さんに使ってしまった⋯⋯。でも⋯⋯今の私の身体は、実験台になる)

 彼女は指文字で、袖、針、と伝えた。幸い不死川は正確に理解し、宇那手の羽織の袖から、愈史郎が作成した注射器を取り出してくれた。

「テメェの血を取れば良いのか?!」

 宇那手はすぐに答えられなかった。血管に空気が入っては、命に関わる。血液の採取は、生きた人間を相手にする場合、案外難しいのだ。

(考えなければ、考えなければ、考えなければ!! でも⋯⋯だけど、死ねば楽に──)

「コイツの前には姿を見せたくなかったんだがな」

 突然、何の前触れも無く、青年が姿を現したので、不死川は刀を構えた。

「なんだテメェ! 気配が鬼だな⋯⋯」

「俺を殺すと、産屋敷に叱られるぞ」

 愈史郎はそう呟き、宇那手の傍に膝を着いた。

「お前は馬鹿か! これは、鬼の細胞だな?! 無惨の毒だろう?! 俺が来るまで、死ななかったのは、奇跡だ!!!」

 彼は手際良く背負っていた袋から薬を取り出し、複数を掛け合わせて宇那手に打ち込んだ。

「そのまま聞け。呼吸を使用する鬼狩りは鬼に変化し難い。無惨がお前に執着していなければ、猛毒で即死だったぞ!! 何故お前が鬼にならなかったのか、知りたい。禰豆子でさえ、自我を保っているとはいえ、体質は鬼に変化した」

「⋯⋯以前、いただいた薬を改良し⋯⋯無惨の細胞を⋯⋯調べ⋯⋯⋯⋯。鬼の細胞を破壊する薬を⋯⋯常用していました⋯⋯。無惨が毒を使用するのは、想定の範囲内⋯⋯」

 宇那手は、ようやく脈の狂いを整え、横になったまま弱々しく笑った。

「私が毎晩、眠ったまま、薬を染み込ませた、非常用の簪を腕に突き刺していたせいで、ほぼ致死量が身体に蓄えられていました。その薬が全て分解されるまでの時間、毒の効果が現れなかったんです。しばらく、薬の重篤な副作用に苦しんでいたので、逆に今は調子が良いですよ。不死川さん、刀をしまって」

 彼女はゆっくり体を起こした。
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