第73章 死の淵
「⋯⋯そう」
宇那手は、罪悪感に囚われた。最後の一押しをしてしまったのは、彼女だ。
「善逸君、雷の呼吸の動作は教わりましたか?」
「はい! というか、隊士になる以前に、既に見せて貰っていたので。どうしても、俺は習得出来ませんでしたが。⋯⋯あの⋯⋯泣いています?」
「泣いていませんよ。君は⋯⋯耳が良いのかな? 遊郭でも、見事な三味線でした。私からは、どんな音がするのでしょうか?」
宇那手は、興味から訊ねた。善逸は少し黙り、彼にしては珍しく慎重に言葉を選んだ。
「あの⋯⋯良く似た音が⋯⋯」
「誰と?」
返って来たのは沈黙だった。
「正直に話してください。怒りませんから」
「鬼です!!」
善逸は、叫ぶ様に答えた。
「鬼です! 鬼と同じ、不規則で、悲しくて、寂しくて⋯⋯でも、炭治郎と同じくらい、優しい音がして⋯⋯。だけど⋯⋯強い怒りが渦巻く様に聞こえるんです!!」
「⋯⋯なるほど」
宇那手は、微笑んだ。
「私は体の構造からして、鬼に近いので、不思議ではありません。感情も⋯⋯そう⋯⋯制御していなければ、私は怒りや悲しみに支配されている。未熟ですね」
「しのぶさんだ! しのぶさんと同じ音がする。貴女も身内を鬼に殺されているんですか?」
「大抵の隊士がそうだと思いますが」
宇那手は、意識して穏やかに答えた。
「私は、身内に命を売られたんです。私の母は、自分の姉の一家を守るために、うちへ鬼を招き入れた。私をひとりぼっちにしない様に、一緒に殺されるつもりだった。だけど私は上手いこと気配を消し、鬼舞辻を欺き、鬼になった両親を包丁で斬り続け、生き延びました。冨岡さんが駆け付けて来て、私を救い出してくださった。あの人だけが、私を生かそうとしてくれた。救いだった。でも⋯⋯」
彼女はとうとう堪え切れなくなって、涙を溢した。
「私は、あまり信頼されていなかった様です。私の行動の結果です。仕方がなかった」