第73章 死の淵
屋敷を出てすぐに、宇那手は雀に突き回された。
(鴉の代わり?!)
「チュン!! チュンチュンチュン!!」
「分かった分かった!!」
宇那手は両手で掬い上げ、袖にしまった。善逸が助けを求めているのだ。
(もっと西? 一人なの?)
森の中を爆走していると、情けない叫び声が聞こえて来た。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 俺、此処で死んじゃうんだ!! きっと朝には冷たくなってるー!!!」
(凄く元気そうだけど)
「善逸君。善逸君!! 聞こえていますー?!」
地面を転がり回っていた少年を、宇那手はツンツン突いた。
「柱ですよ。君の師範です」
「火憐さん!」
善逸は嘘の様に泣き止み、正座をした。
「お恥ずかしい所をお見せしましたが、大丈夫です!」
「大丈夫じゃないですね。足を怪我しているでしょう。見せてください」
宇那手は、善逸の脚帯を外し、様子を見た。
「軽度の捻挫。全治二週間。雷の呼吸は脚力が大切ですので、無理は禁物です」
そう言って包帯を巻いてやると、善逸は俯いてしまった。
「俺は全然強くなっていないです。炭治郎や猪之助がいたから、頑張れただけで、一人じゃ何も出来ないです。異能の鬼相手でも、怖くて堪らないし」
「でも戦って勝っている。立派です。⋯⋯私の背に乗ってください。安全な場所まで運びます」
「いえ、歩きます!」
「乗れ」
「はいぃ!!」
押しに弱いらしく、善逸は宇那手の背中に飛び乗った。
(此処からだと、実弥さんの屋敷が近いか。竈門君はともかく、善逸君は嫌われていないはず)
「あの」
善逸は、おずおずと口を開いた。
「腕、怪我していますよね? それに、怒っています?」
「怪我は問題ありません。貴方に対して怒っている訳でもありません。それよりも、兄弟子とは連絡が取れましたか?」
「⋯⋯鴉が、後を追えなかった。返信をくれないのは何時ものことですが、手紙が戻って来たのは初めてです」