第71章 If〜砂時計〜
「お父さん。⋯⋯育ててくれてありがとうございます」
凪は、涙をボロボロ溢して父に縋った。冨岡は、解放された様な、穏やかな表情で、醒めない眠りに落ちていた。
暗い道を通り抜け、冨岡は、眩い空間に出た。見知った顔が多く出迎えてくれた。
胡蝶、甘露寺、伊黒、悲鳴嶼、無一郎、産屋敷家の面々。しかし、宇那手の姿は無かった。
彼女は、一人で、川辺に腰掛けていた。
冨岡は今になって気付かされた。彼女の両親は鬼になっており、叔母一家も、保身の為に鬼に宇那手の家族を売り渡したのだ。全員地獄にいた。
「火憐」
呼び掛けると、少女の姿をした女は、眉尻を下げて微笑み、振り返った。
「おかえりなさい、冨岡さん。寂しかったです」
「ずっと一緒にいる。生まれ変わったとしても、ずっと」
二人は、自由になった身体で、お互いを強く抱き締め合った。