第71章 If〜砂時計〜
家へ戻ると、子供達が心配そうに冨岡を見詰めた。彼は、随分苦労して微笑んだ。
──心配無い。
それから一年後、今度は郵送で手紙が届いた。
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大好きな義勇さんへ
三十一歳の誕生日、おめでとう。険しい一年だったでしょう。辛く悲しい思いを堪えて、前を向いた貴方は立派です。流石、私の愛した柱。
蝶子と蔦は、さぞかし美人になったでしょう。だって、私と貴方の娘だもの。
凪は貴方と良く似ていたから、お喋りが苦手かもしれません。貴方が助けてあげてね。
私は今、幸せです。胡蝶さん、悲鳴嶼さん、伊黒さん、甘露寺さん、無一郎君が一緒ですから。
貴方がいないのは、とても寂しいですが、堪えられる。仲間がいるから。同じ場所で、また巡り会えることを祈っています。
鮭大根の醤油は控え目に、ね。身体を壊してしまいますから。
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義勇さんへ
四十歳のお誕生日、おめでとう。手が動き辛いので、タイプミスがあったらごめんなさい。
生きて行くのは、悲しい事ばかりでは無いと、そろそろ気付いた頃でしょうか? 娘達は、貴方の手を離れたかしら。
私の願いを叶えてくださってありがとう。生きていてくださって、ありがとう。貴方は私の誇りです。
今も変わらず、心から愛しています。
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冨岡は、娘が嫁に出て、息子が嫁を貰ってからも、同じ屋敷に住み続けた。
そして、六十の誕生日を迎えた翌日。
「父さん?!」
息子の凪は、縁側で柱に寄り掛かっている父の姿を見つけた。手には、最後の手紙を握りしめていた。
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義勇さんへ
私の見立てが正しければ、貴方はそろそろ、私と同じ覚悟を持つ頃合いかと思います。
やり残した事はありませんか? 伝えていない思いはありませんか?
後悔を、しないで欲しい。笑って、貴方と顔を合わせたい。
初めて本音をお伝えします。私はとても寂しい。貴方に会いたい。両腕で、貴方を抱きしめたい。
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