第11章 産屋敷耀哉
「輝利哉のことをお前に託す。どうか、幼いあの子を助けてやって欲しい。火憐の様な子と出会えて良かった」
産屋敷は顔を上げ、柔和な表情を宇那手に向けた。
「耳飾りの件は調べてみよう。日の呼吸についても。⋯⋯もう一つ良いかな?」
「はい!」
宇那手は、姿勢を正した。
「この屋敷は巧妙に隠されている。しかし、火憐は、二回とも、正確に入り口の位置を把握した。どうしてかな?」
「嗅覚、聴覚、視覚、触覚、どれ一つ欠けていても認識は出来なかったと思います。ですが、一点気に掛かった点を挙げるのであれば、ほんの微かに、気のせいかと疑う程のものですが⋯⋯無礼をお許しいただけますでしょうか?」
「言ってごらん」
「鬼舞辻と同じ気配がしました。今も。お館様に近付く程に。鬼舞辻と接触した者にしか、分からない気配です」
「⋯⋯」
産屋敷は、深く息を吐いた。最早自分が何かを伝えようとせずとも、宇那手は全てを察し、知る事が出来る様な気がした。
宇那手は確実に怒るだろうが、宇那手の家族を鬼舞辻が襲った事は、鬼殺隊にとっての幸運だった。そして、鬼舞辻にとって、取り返しの付かない誤ちになる事は、目に見えていた。彼は、自身の手で、最も脅威となり得る存在を、鬼殺隊に送り込んでしまったのだ。
「これを話してしまえば、火憐の身を危険に晒してしまうかも知れない。だが、一人で抱え続けるには⋯⋯あまりにも辛い真実だ。お前を頼っても良いかな?」
産屋敷は、初めて鬼殺隊の隊士に弱味を見せた。宇那手が返事をすると、彼は額に手を当てて、溜息を吐いた。
「産屋敷は、千年前に鬼舞辻無惨を輩出した一族の末裔なのだよ。だから、気配が似ていたとしても、不思議では無い。私の病は、鬼舞辻を産み出したことによる呪いなんだ。全ては、私たち一族に責任がある」