• テキストサイズ

【鬼滅の刃】継ぐ子の役割

第70章 隔てる壁


「失礼します」

 冨岡は、産屋敷にのみ挨拶をすると、宇那手の手を強過ぎる力で引っ張り、歩き出した。

 隠に背負われ、屋敷の外に放り出された瞬間、冨岡は宇那手の唇を塞いだ。すぐに身体を離したが、彼女は顔を真っ赤にして困惑していた。

「どうしたんですか、急に」

「お前が時透と寝たと聞いてから、辛抱ならなかった」

「誤解を招く言い方はやめてください。時透君は、魘される私を宥めてくださっただけです」

「ならお前は、俺が知らぬ女と床を共にしても気にしないのか?」

「⋯⋯貴方が死んでしまうよりずっと良いです」

 つまり、宇那手は、死に瀕する様な行動を取っていたのだ。だから、時透が無理矢理抑え込んだのだと、冨岡は判断した。

「⋯⋯帰ったら、まず眠れ。夜は、相手をして貰うぞ」

「でも、今晩は鬼が来ます。それに槇寿郎様が──」

「関係無い。お前が誰の物か、お前自身に教え込まなければ駄目な様だ。声も、身体も、爪の先も、俺の物だ」

「違います」

 宇那手は、笑顔で否定した。

「私の全ては、私の物です。私は私の為に生き、貴方を愛します。私は、もう、自分の為に生きるという選択が出来ます。生きて、生きて、生き抜いて、貴方のお傍にいます」

「火憐⋯⋯」

 冨岡は、じわりと涙が溢れるのを止められなかった。

 息も凍りそうな雪山で、継子にするか、殺すか選べと詰め寄って来た女が、自分の命に価値を見出し、笑っている。どれだけ辛い思いをして来た事だろう。どれだけの痛みを伴って、立ち上がったのだろう?

 自我を取り戻した宇那手の姿を見て、冨岡は自分の不甲斐なさを痛感した。

「すまなかった。お前が一番助けを必要としていた時に⋯⋯俺は何も出来なかった⋯⋯。あの冬の山で、すぐにお前を抱き締めてやるべきだった。今になって⋯⋯お前が一等強く、美しくなった今⋯⋯こうして抱き締めるなど⋯⋯卑怯で、卑劣だ。それでもお前は、まだ俺を──」
/ 766ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp