第70章 隔てる壁
「上背は、胡蝶さんと三センチしか違わない。体重は君より十六キロも少ない。鬼の首を斬れるだけでも、奇跡なんです。何度、悔しくて泣いたか分かりません。私が男だったら⋯⋯もっと上背があれば⋯⋯と。貴方が羨ましいです、無一郎君。胡蝶さんの手前、こんな泣き言は言えませんでしたが」
彼女は、他の柱達も睨め付けた。
「体躯に恵まれ、呼吸の才能もある者たちが、私を超えられない事が憎い!! 許せない!!! 戦う才が無いのなら、どうして頭を使わない?! 何故千年間、誰一人として無惨と対話をしなかった?! ⋯⋯伝わって来たの⋯⋯。鬼舞辻は動揺していた。心から悔いるまでに至らなくても⋯⋯私の言葉が響いていた!! もっと早く、誰かが対話をしていれば!! ヤツが大勢の人間を殺す前に⋯⋯言葉を交わしていれば⋯⋯。悔しい!! 悔しいよ!!!」
其処には、怒りと悲しみに震える、一人の女がいた。
柱の面々が、最初に見た、無機質で、人形の様な少女は何処にもいない。
「みっともなく喚くな!!」
冨岡は、宇那手の胸倉を掴んで怒鳴った。その気迫に、他の柱も目を見開いた。
「柱の中で最も才のある人間が、泣くな!! 俺が何も思わずにいると思うか?! 上背があり、体躯に恵まれている俺が、お前ほど呼吸の才に恵まれていない事を、悔しく思わないとでも思ったか!! お前一人すら守れない事を、どれだけ歯痒く思った事か!! 誰もがそうだ!! お前を見れば、お前の才を羨み、無力を呪うだろう!! それでも、歯を食いしばって戦う!! 男だから、泣くことも許されない!! お前も柱なら、堪えろ!!」
「⋯⋯はい」
宇那手は、呆然と返した。冨岡は顔を伏せていたが、今にも泣きそうな表情をしていることが分かった。
「⋯⋯すまない」
彼は手を離して、震えた。
「お前を叱咤する事しか出来ない。許してくれ。俺が無力だからだ。お前の怒りは理解出来る。だが、堪えるしかない。それしか無いんだ」