第69章 【外伝】紅茶と手紙
「愈史郎」
珠世は、自らの手で鬼にした青年の手を取った。
「ごめんなさい」
その言葉が、何を意味するか、愈史郎は完全に理解出来なかった。きっと、多くの感情が込められている。
珠世が命懸けで無惨を倒そうとしている事は、愈史郎も分かった。もしそれが叶えば、彼は最後の鬼として、悠久の時の中に取り残される事になる。
(珠世様。俺は待ちます。何百年⋯⋯何千年でも。貴女がまた、この世界に戻って来られるまで)
鬼狩りの女から送られて来た物は、不吉な物では無かった。
珠世は毎日違う種類の紅茶を淹れ、その度に心からの笑みを浮かべる様になった。
だから、愈史郎も、悪意を向けて来た鬼狩りの毒使いに対する態度を改めることにしたのだ。
(そりゃあ、憎いだろう。肉親を鬼に殺されているんだ。俺だって、お前達が憎かった。鬼であるというだけで、悪意と刀を向けて来る人間が)
「俺は人を喰ったことが無い。ただの一度も。鬼だから、出来ることもある。助けてやりたいんだ。あの、優しい鬼狩りを。火憐の仲間を」
その言葉で、胡蝶しのぶの態度は軟化した。