第70章 隔てる壁
緊急柱合会議は、かつてないほど緊迫した雰囲気だった。会議というよりも、柱が各々勝手に集まって来たのだ。
「時透、お前がこんな失態を犯すなんて信じられない。甘露寺もだ。柱が二人配置されておきながら、何故火憐を逃した?」
伊黒の言葉に、口を挟んだのは不死川だった。
「無理もねェ。上弦は柱三人分の戦力と言われている。上弦に対抗できる火憐を抑えるには、柱が三人必要だった。俺は冨岡を責めるべきだと思うがな! 何故行かせたァ?!」
「任務遂行可能と判断した」
冨岡は言葉少なに返した。陽が高く昇っても、宇那手は、まだ戻らない。
「お前たちは、何をしているのかな?」
産屋敷が、娘に身体を支えられながら、姿を表した。明らかに病が進行している。呪いは、顔のほぼ全体に広がっていた。
「此処に柱が六人もいる。しのぶと火憐以外、任務も、鍛錬もしていないという事になる」
彼は、初めて柱を責める様な言葉を発した。
「お館様。納得出来ません」
不死川は、溜まり溜まった不満を吐露した。
「鬼の娘の件といい、火憐の件といい。何故俺たちに浅草へ行けと命令してくださらないのですか? 鬼舞辻の拠点をご存知でしょう?」
「それはね⋯⋯」
言いかけて、産屋敷は咳き込んだ。袖に血が飛び散った。娘たちが介助し、代わりに、奥に控えていたあまねが進み出た。
「柱が束になって掛かっても、鬼舞辻無惨を殺せないからです」
その言葉は、柱たちに深い憎悪と、驚きを抱かせた。あまねは続ける。
「来るべき時に、鬼舞辻無惨を滅するため、これ以上柱を失うわけには参りません。火憐さんは、あくまで、鬼舞辻無惨の人間のご家族を守りに行きました。対価についても、熟考の上です。無事にお戻りになるでしょう」