第68章 麗
「嫌です。⋯⋯お互い譲れない点ですね。私は鬼にはなりません。ですが、目的がぶつかり合っている。私も、貴方を殺したくありません。麗さんや、娘さんを悲しませたくは無い。私は、貴方がどうして完璧な存在になりたいのか、理解出来ません。陽光を克服したら、貴方は何がしたいのですか? 終わらない命を抱えて、一人きりで」
「お前に話すつもりは無い。話題を変えよう。私の懸念は、この住所が産屋敷に割れている事実だ。麗からの手紙で、住所が漏れている」
「此処に隊士が来る事はありません。貴方を、柱の一人や二人で葬れるとは、お館様も考えてはいません。麗さんと、娘さんが人質になっている。⋯⋯私がお館様を制御します。此処へは隊士を送りません。絶対に」
「保証が欲しい」
鬼舞辻の言葉に、宇那手は心の中で冷笑した。
(臆病者というのは、事実ね)
「どうぞ」
彼女は紙切れを差し出した。
「水柱の住所です。私が命に代えてでも、守りたいと思っている人⋯⋯。私が裏切ったら、殺してください。勿論、可能な限り抵抗しますが」
「それから、これを」
宇那手は、佐伯の守り袋を差し出した。
「所持していた隊士は、引き止めました。佐伯さんを勧誘したのは貴方ご自身では?」
「ああ」
鬼舞辻はあっさり認めた。
「期待はしていなかったが」
「私は貴方の毒を塗った短刀で、首を刺されたのですが。危うく死ぬ所でした。もう少し相手を選んで欲しいですね。例えば、とある雷の呼吸の使い手とか。保身の為なら、迷わず他人の命を差し出す人間です」
「この傷は、その時に出来た物か」
鬼舞辻は、隊士の話よりも、宇那手の傷跡に興味を示した。
「鬼になれ、火憐。鬼になれば、傷など残らない。その美しさが損なわれる事など無い」
「お断りします。私は、永遠の命など、欲しくはありません。愛する人が老いて、死んで逝った後、一人で生きて行くのは堪えられません」
「ならば──」