第11章 産屋敷耀哉
「⋯⋯ありがとうございます」
宇那手は、素直に頭を下げた。それから短時間で熟慮し、顔を上げた。
「日輪刀を、もう一本打って頂くことは出来ませんか?」
「⋯⋯刀を?」
「強敵が相手であれば、呼吸を使っても刀が折れる可能性に気が付きました。私は、三年間同じ物を使用しています。手入れはして来ましたが、何時折れてもおかしくはありません。折れてから打ち直していただいても、戦いに間に合わなければ困りますので」
「それは、本来私が配慮するべき点であって、報酬にはならないね」
産屋敷は、宇那手の無欲さに笑みをこぼした。
「何か他に無いのかな?」
「⋯⋯では、鴉を交換してください」
宇那手は、無理を承知で申し出た。
「あの子は喧しくて、手に負えません。師範の詰め将棋の相手をしている時に、あれこれ指図をされて気が散ります。何度も止める様に言ったのですが、聞いてくれません」
「ふっ」
産屋敷は笑みを深めた。
「分かった。手配するよ。それから、お前たちの屋敷に、食材を送るのを許して欲しい」
「深く感謝致します」
「その代わり、私の悩みを聞いて貰えないだろうか? 火憐が秘密を隠し通せるという点を信頼している。早速だが、何故鬼舞辻は炭次郎を狙うのだと思う? 禰豆子では無く、炭次郎を追う様に、と命じている様だ」
産屋敷の問いは、宇那手を試している様にも、本当に疑問に思っている様にも感じられた。
「お館様は、何故炭次郎様を追っている鬼舞辻が、禰豆子さんの方に興味を持っていると考えたのですか?」
「⋯⋯鬼舞辻が鬼を増やすのは、自身が完璧な存在になるためなんだよ。特別な能力を発揮した鬼を喰い、その能力を引き継ぐ事を目的としている。禰豆子には、特定の人間を守るという、強固な意思がある。その辺りに興味を持ったのだろうね」