第68章 麗
(何が起きている?!)
宇那手は、麗の住所を辿る程、嫌な気配を感じて戦慄した。
(鬼だ! 無惨じゃない!! でもどうして? 何故自分の傍に配置している? 今の立場を守りつつ、家族を始末するつもり?!)
駆け付けて状況を理解した。鬼舞辻にとっても想定外だったのだ。彼は人間の姿のまま、怯える妻と子供を庇う様にしゃがんでいたが、爪が鬼のそれに変化しかけていた。
あと少し遅ければ、鬼舞辻は保身の為に妻子を切り捨てていただろう。
「動くな!!」
宇那手は叱声を放ち、抜刀した。鬼は宇那手に顔を向けた。
「鬼狩り?! 何故鬼狩りが此処にいる?!」
(知性があるの?! それなのに、何故無惨を襲った?!)
謎は深まるばかりだが、斬ってから鬼舞辻に事情を訊いた方が良いと判断し、宇那手は技も使わず首を刎ねた。
鬼はドサっとその場に倒れ、辺りに灰の臭いが漂った。
「大丈夫ですか?」
彼女は刀を収め、麗に向き直った。
「火憐さん⋯⋯。ありがとう⋯⋯!! ありがとうございます!!」
「家に入ってください。月彦さんにお話を伺いますので」
宇那手は怯える麗と娘を立たせて、屋内に追いやった。
「何故お前が此処にいる」
先に口を開いたのは鬼舞辻だった。宇那手は、意識して微笑み、真っ直ぐ彼と向き合った。
「実は、麗さんと文通をしていたんです。貴方が二週間も家に戻らないと心配していました。だから、様子を見に来たのです。何故鬼に襲われていたのですか?」
「良くある事だ」
鬼舞辻は、眉間に皺を寄せた。
「知性を取り戻した、そこそこの鬼が、私を殺そうとやって来る事は、稀では無い。己で己の家族を喰い殺しておきながら、仇だなんだのと吐かす。さっきの鬼も三十人は喰っていただろう」
「どうして庭先で襲われていたのですか?」
「私が帰宅した所へやって来た。麗には中へ戻れと命じたが、利かなかった。⋯⋯甚だ不本意だが、お前に礼を言うべきだな。危うくこの立場を失う所だった。麗と子供を喰わせて、鬼は始末するつもりだった」
「意外ですね。貴方はギリギリまで、麗さんを守ろうとしていた」