第67章 心のままに
「同じ様に泣き喚く人間でも、善逸君はここぞという時に逃げ出さない。だから、階級も一気に上がったんですね! 貴方を見て納得しました!」
「馬鹿にしないでください!!」
青年は初めて怒りを露わにした。
「俺は逃げ出した事なんてありません!! 階級が上の人間に命令されない限り!! 戦って、生き残って来たんです!! でも⋯⋯逃げずに戦っただけじゃ評価されない!! 俺の方がずっと長く戦って来たのに!!!」
(⋯⋯なるほど)
宇那手は、青年の異様な気配を察知し、得心が行った。
「失礼しました。ところで、貴方は誰から辞令を受けました?」
「鴉ですよ!!」
(お館様も承知済みか⋯⋯もしくは、鴉を利用されている⋯⋯)
「貴方は何処へ向かうつもりですか?」
「浅草です!!」
「そうでしたか」
宇那手は、青年の肩に手を置いた。
「命令です。貴方は次の駅で降りなさい。お館様には、私が連絡をします。最近、誰かに何か持ち物を送られませんでしたか? おかしな気配がするのですが」
「持ち物⋯⋯。そういえば、同期が亡くなったので、形見を受け取りました」
「見せてください」
「ただの守り袋ですよ」
青年は、黒いお守りを取り出して、宇那手に手渡した。
(っ!! この感触!!)
血が固まって、黒く染まったのだ。裏返して見ると、元の持ち主の名が入れられていた。
(佐伯さんの物だ!!)
「どうして、これが貴方の手に渡ったのか理解出来ませんが、一先ずお預かりします。貴方への処置が先です」
宇那手は、桐の箱を取り出し、守り袋を収めると、荷物を漁って薬を探した。
「先に聞いておきたいのですが、任務というのは本当ですか? 良く考えて答えてください。本当に命令を受けましたか?」
「そんなのっ⋯⋯あ⋯⋯あれ? 違う⋯⋯。俺は怪我をしていたし⋯⋯。佐伯は柱を害そうとしたって⋯⋯!! なんで⋯⋯」
「厄介ですね」
宇那手は、小瓶を差し出した。珠世から送られて来た調合表を元に作成した、血鬼術の影響を取り除く薬だ。
青年はそれを飲み干すと、数十秒後に血の気を失った。
「あ⋯⋯。嘘だ⋯⋯。俺⋯⋯」