第67章 心のままに
彼女は駅に駆け込んで、列車に飛び乗った。乱れた髪を整えながら席を探すと、丁度鬼殺隊士が掛けていた。任務へ向かう途中なのだろう。不安気な表情をしていた。と同時に、嫌な空気を纏っていた。
「座っても良い?」
火憐が訊ねると、青年はあからさまに嫌そうな顔をしたが、彼女の隊服と刀を見て態度を改めた。
「どうぞ。貴女も任務へ?」
「いえ、野暮用。気にしている様だから先に教えてあげるけれど、私は柱です」
火憐は、ほんの少し刀を抜き、刻まれた文字を見せた。
「丁度暇なので、内容を教えてくれる? 何か役に立てるかも知れないから」
「あーーー!!! 嫌だーーー!!!!」
青年は頭を抱えて大声を上げた。
「柱の乗ってる汽車とか、死ぬの確定じゃん?! 俺、己だよ?! 上弦とか対処できない──」
「やかましい!」
宇那手は、鞘で青年をぶん殴った。
「上弦は此処に現れません。良いから任務の内容を話せ!」
「合同任務です⋯⋯。黄色い頭の隊士と合流しろって! 最近庚に上がったばかりの隊士ですよ!!」
「うわあ」
宇那手は、げんなりした。善逸が二人で任務に当たる様な物だ。さぞかし喧しいだろう。後始末をする隠が気の毒でならない。
「我妻君なら、私の継子です。安心して。彼は下弦ノ壱と、上弦ノ陸を斬っています。少々喧しいですが、強い。良いから任務の話を」
「異能の鬼です。恐らく二十人程度は喰っています! 男ばかりを狙って喰っている!!」
「珍しいですね」
火憐は、メモを取った。稀血や子供なら兎も角、男ばかりを選んで喰う鬼はいなかった。
「通常鬼は、女性を好んで食します。子供を産む事が出来るため、栄養価が高いからです。男ばかりを喰うなら、女性の隊士を送るべきだと思うのですが⋯⋯。もしかすると、男の前にしか姿を現さないのかも知れませんね」
「そんなのどうしたら良いんですかー!!!」
「あらあら、簡単なお話です」
宇那手はにっこり笑った。
「逃げれば良いんですよ、鬼が現れたら。大丈夫! 善逸君が首を斬ってくれますから! 貴方は無様に逃げ出せば良い。⋯⋯なるほど!」
彼女は一人、頷いた。