第67章 心のままに
「良かったー!」
甘露寺は胸を撫で下ろした。宇那手は、涙ぐみながら、肉料理にも手を付けた。
(私が死んだら、私を生かして来た生き物が報われない。ここで死んでしまったら、何のために殺して来たのか分からなくなる⋯⋯。中途半端が一番駄目だ)
火憐は、何とか全ての料理を少しずつつ取り分けて食べたが、満腹になってしまった。
そこで活躍し始めたのが、甘露寺だ。彼女は常人の十倍の速さで、次々と皿を空にして行った。
時透ですら、三十分で食事を切り上げ、大きく伸びをした。彼の反応から見るに、甘露寺の爆食は平常運転なのだろう。
「ああ、そういえば、姉さん。隠が手紙を持って来たよ。冨岡さんからだって」
「ええ?! 何時?!」
「今朝三時過ぎ」
「どうしてすぐに起こしてくれなかったの?!」
「休むのが仕事だって、言ったよね? それに、ちょっとした意地悪。何となく渡すのが嫌だったから」
「ぷ」
甘露寺は吹き出してしまい、皿で顔を隠した。火憐は深刻な表情で手を差し出した。
「手紙を」
「はい、これ」
時透は、一度開封された形跡のある物を手渡した。
宇那手は、内容に目を通し、血の気を失った。
(まずい⋯⋯。家に戻った時、鬼舞辻の機嫌が悪かったら、殺されてしまう!! 麗さんを落ち着かせないと。⋯⋯でも、此処からは、手紙を出せない⋯⋯。何とかしないと⋯⋯。だけど⋯⋯)
甘露寺と時透の目があって、動けない。
(違う。動くしかない。守ると決めたなら、守るだけ)
体感、甘露寺を騙すのは簡単に思えた。勿論深く傷付ける事にはなるだろうが。問題は時透だ。
「⋯⋯疲れた。少し寝ても良いかな?」
火憐は、手紙を懐に収めて肩を落とした。
「もう身体がボロボロなの。疲れた⋯⋯。これ以上、私に何をさせたいの⋯⋯」
「早く寝て。昼間は大丈夫? 一人でも平気?」
「うん。心配ないから。ありがとう」
火憐は、ふらふらと立ち上がり、部屋を出た。そして、深呼吸した。
(昼間は無一郎君も鍛錬 millに行く。動くなら昼間だ。念のため、もう少し休んでから)
彼女は布団に戻って目を閉じた。ついでなので、身体の調子を窺った。