第67章 心のままに
(こんなに沢山、どうしろって言うの⋯⋯)
宇那手は、大量の朝食を前に顔色を失った。
「姉さん、食べられるだけ食べて。何が食べられるの? 何が好きなの?」
時透は、無表情に詰め寄った。宇那手は、頬をカッと赤く染めて身を引いた。
(嗚呼⋯⋯駄目! こうして見ると、男の子だ!)
「食べさせなきゃいけないの?」
顔を近付けて来た時透に、宇那手は泣きそうな表情を向けた。
「自分で食べるから、からかうのはやめて!」
「もしかして、僕の顔が好き?」
「は?!」
「何度か言われた事があるんだ。誰に言われたか忘れたけど。火憐さんって、一途なのかと思ったけど、もしかして結構面食いなの? 僕がもう一押ししたら、靡いてくれる?」
「違う! 違うの!! 私、男の子が苦手なの!!」
「うーん。苦手な人の反応じゃ無いよね? 顔が赤いし。何想像したの?」
「あのー!」
堪りかねた甘露寺が横から口を挟んだ。
「かっこいい男の子にときめく事って、普通なの! でもね、恋をするかは別問題!! 無一郎君。からかうのはやめて、ご飯にしましょう!! 冷めちゃうから!! 火憐ちゃん、何が食べられる?」
「ええっと⋯⋯」
正直食欲が無かった。汁物程度なら口を付けられそうだったが、大量の料理を前に、宇那手は考えた。
(これだけの物を誰が作ったの? 全部洋食⋯⋯。誰が作らせたの? 全部私のためだ⋯⋯)
「味が分からない物も沢山ある⋯⋯。甘露寺さんのお勧めは?」
「パンケーキよ!! うちの蜂蜜も使ってるの!! 栄養満点よ!!」
彼女は巨大な、パンに似た料理を手に取った。
「これにする?! 他には?!」
「全部⋯⋯少しずつ食べたら、行儀が悪いでしょうか?」
「そんなこと無いわ!! 残ったのは、全部私と時透君で食べるし、折角色々作って貰ったんだもの! ちょっとでも、全部食べてくれた方が嬉しいに決まってる!」
「では、少しずついただきます」
(食べなきゃ生きて行けない。分かってた。生きて欲しいから、私も作っていた。⋯⋯食べないと。食べて、生きないと!!)
宇那手は、慣れないフォークやらナイフを駆使して、あらゆる料理を少しずつ食べた。
「⋯⋯美味しい」