第66章 真の鬼
「俺は、あくまで珠世様の指示に従う」
愈史郎は、決然とした表情で薬を受け取った。
「だが、珠世様が心から信頼する火憐のためなら、手を貸してやらない事もない。この屋敷に目眩しの術を使おう。冨岡と言ったな? すぐに火憐の元へ行け。あいつが死んだら、正直無惨を倒すのは厳しい。珠世様の行動が無駄になる」
「⋯⋯」
冨岡は衝撃を受けて固まっていた。胡蝶の言葉が、何度も頭に響いた。
──戦う為に生かされている。
それなら、鬼舞辻を倒した後、宇那手はどうなるのか。強靭な肉体が、呪いの産物だというのなら、解放された時、彼女はきっと⋯⋯。
「冨岡さん?」
胡蝶は顔を顰めた。
「どうしました?」
「⋯⋯鬼舞辻を殺してしまったら⋯⋯火憐も呪縛から解放されて、死ぬのか? やはり、俺は柱に相応しく無い。あいつを死なせるくらいなら、今がずっと続いた方が良い。⋯⋯心底疲れた。何処か遠くの街で、静かに暮らしたい。俺には、守りたい家族が火憐しかいない。死なせたく無い⋯⋯」
冨岡は、拳を握り怒りを露わにした。初めて、鬼殺隊という組織に対して、恨みを抱いた。
「火憐の命を消費して行くだけの連中が許せない!! 弱い自分が⋯⋯許せない。あいつを連れ出せない自分が⋯⋯」
「じゃあ、辞めれば良い」
愈史郎は腕を組んで、珍しく人間の為に説教をした。彼は少年に見えても、冨岡より年長者だ。
「立ち止まって、今にしがみ付いていろよ、馬鹿。火憐は、絶対に立ち止まりはしない。一番不幸なのはお前じゃない。消費されて行く火憐だ。それなのにお前は、不幸ぶってあいつを困らせるのか! 俺からしたら、あいつは幸せだよ。人に愛されて⋯⋯人として死ぬ事が出来る」