第66章 真の鬼
「俺はお前に協力すると約束した」
「では、火憐さんを切り捨てて、私と死にますか?」
胡蝶は、心底冷ややかな目を冨岡に向けた。
「無理でしょう。中途半端に情けを掛けるのはやめてください。元々貴方は、火憐さんの為に、協力を約束した。今貴方がやるべき事は、自分の頭で物事を考えて、動く事です。仕事が無いのなら、一日でも、一秒でも長く、彼女の傍にいてください。私も、カナヲに対して、そう接しています」
「割り込んで悪いが、早くしてくれ」
愈史郎は、イライラと口を挟んだ。
「俺は鬼だ。陽の光を浴びれば死ぬ。朝が来る前に、薬を預かり──」
「冨岡さん!!」
診察室の扉が勢い良く開いた。愈史郎は慌てて目の色を変えた。
隠が手紙を持っていた。
「お屋敷の方に、これが⋯⋯。宇那手様宛の物です!! 送り主が浅草だったので、急ぎお知らせするべきかと!!」
「見せろ」
冨岡は手紙を引ったくって開封した。
(麗⋯⋯? 鬼舞辻の嫁か?)
──突然ごめんなさい。主人が、もう二週間も戻らないのです。貴女なら、何かご存知では無いかと思いまして⋯⋯。
「無惨が浅草から動いた!」
冨岡は手に汗を握り、立ち尽くした。
(何処にいる⋯⋯?! まさか自ら里へ?!)
「落ち着け」
愈史郎は、手紙を覗き込み、宥めた。胡蝶は隠を部屋の外へ出し、眉間に皺を寄せた。
「無惨は、他にも人間としての拠点を持っているのですよね?」
「火憐によると、製薬会社や、資産家の養子として過ごしている。⋯⋯一番身動きが取り辛いのは、養子だな。子供が何日も行方不明になれば、騒ぎになる」
「不味いな」
愈史郎は荷物を纏め始めた。
「だとすると、無惨は珠世様の近くにいる。すぐにでも拠点を移さなければ──」
「待て」
冨岡は、普段使わない頭を、必死に回転させた。
(俺の思考は及ばない。火憐なら、どう考える?)
「お前たちは、今いる場所で診察を行ったか?」
「数人診ていた」