第66章 真の鬼
「胡蝶。前から気になっていたが、お前はどうやって姉の仇を討つつもりだ」
冨岡は、余計なお世話だと思いながらも、訊ねずにはいられなかった。
「鬼の首を切れないお前が、どうやって⋯⋯。上弦ノ鬼に毒は効くのか? ここで、隊士の救護に当たっていた方が、長く貢献出来る」
「まず、効く毒を作るのが、私の仕事です。それに、私は隊士の救護係を目指して、柱になったわけではありません。⋯⋯意外ですね。貴方が心配してくださるなんて。火憐さん以外にも、興味を示すなんて」
「お前は死ぬつもり──」
「誰もが、死ぬつもりで動いています。私も、珠世さんも。恐らく、火憐さんも。だから、冨岡さん。私よりもあの子を注視していないと、死んでしまいますよ」
胡蝶は、手元に目を向け、泣きそうな笑みを浮かべた。
「人の命は、同じ様に尊いのに、誰もが自分よりも、他人を優先しようとする。自分だって、誰かにとってかけがえのない存在で、消えて無くなってしまえば、残された人間を苦しめる。そう、分かっているのに。冨岡さん。生きるということは、自分の命以上に、価値のある物を見つける事だと思いませんか? 私の場合、それが過去に置き去りにされている。私は幸せでした。優しい両親と姉に囲まれて。その時間をくれた姉のためになら、なんだってします」
「お前の継子はどうする?」
冨岡の言葉に、胡蝶は顔を引き攣らせた。一度も考えなかったわけではない。胡蝶しのぶの計画は、胡蝶カナヲの心を犠牲にする物だ。ようやく色を取り戻し掛けた、子供の心を。
「もう、後戻りは出来ません。私の計画は、人の命も巻き込んでいる。カナヲには悪い事をします。⋯⋯分かっています。取り残される苦しみを。憎しみと悲しみが連鎖して行く。鬼舞辻を殺して、全ての鬼がいなくならない限り、あの子も私と同じ様に、鬼を憎み、死ぬまで戦い続けるでしょう。だからこそ、負けるわけにはいかないんです。この話は終わりにしましょう」