第11章 産屋敷耀哉
「楽にして良いよ、火憐」
産屋敷の声に、宇那手は頭を上げた。彼女は庭ではなく、屋敷の中に呼ばれた。今日は傍に娘の姿も無い。
「しのぶが色々と話してくれた。お前は私の考えを良く読み、私を許してくれたのだね。⋯⋯そして、一つ気になった。火憐には、私の声が通じない様だ。理由を聞かせてくれるかな?」
「お館様のお声に、不思議な力がある事は、すぐに分かりました。ですので、この屋敷内では、直感ではなく、理論的な思考を用いて会話をしようと心掛けています」
「なるほど。お前がはじめてだよ。⋯⋯義勇から、大事な話があると言われて招いたのだが、一体どんな話を聞かせてくれるのかな?」
「お館様は、鬼の珠世様と繋がりを持っていらっしゃるのですよね? その方が、鬼の血液を調べていることもご存知ですか?」
「その鬼の医者を、私たち一族はずっと前から探している。安心しておくれ。討伐対象からは、外れているからね」
「では、こちらを」
宇那手は、藤の紋が刻まれた小箱を取り出した。
「三年前、母が襲われた直後、肩に深い傷がありました。人喰い鬼は血液を介して増えます。私は仇を取るために、傷口付近の布を剥ぎ取り保管していました。師範のお話から察するに、両親を襲ったのは鬼舞辻本人です。年月は経っておりますが、この布には、鬼舞辻本人の血液が付着しています。奴にとって致命的なこの手掛かりを、どなたに託すべきか、判断を仰ぎたく参りました」
「⋯⋯驚いた」
産屋敷は、心から宇那手を称賛した。まだ隊士になる前から、彼女は判断力に優れていたのだ。
そして、秘密を独りで三年間隠し通す能力も持っている。
「炭次郎に渡して欲しい。あの子は、珠世さんとの連絡手段を持っているからね」