第66章 真の鬼
昼間から屋敷に居座っている冨岡に、胡蝶はどういう了見かと怒りをぶつけたくなったが、事の深刻さに頭を抱えていた。
「冨岡さん。この手紙、他人の手に渡っています」
胡蝶は、冨岡から渡された自分宛の手紙に目を通して、顔を顰めた。彼女は以前宇那手から送られて来た、直筆の手紙を取り出し、並べて見せた。
「一部を書き換えたのなら、分かったかもしれません。ですが、全体を書き換えられているとなると、見分けが付かなかったのも分かります。鬼側に伝わっていない様ですが、彼女は私に手紙を書く時、必ず万年筆を使い、横書きの物を送って来ます。医学書は、横書きの物が多いからです。つまり、これは元々囮です。彼女は鬼に、どの程度情報が漏れるか、探っていたのです。私の手元には、蘭語の手紙が届きました。郵送で。よく見てください。彼女の字は、本来、の、に癖がある」
「確かに⋯⋯こうして見ると⋯⋯」
冨岡は、よく知っていたはずの宇那手の文字を見詰めた。
胡蝶は溜息を溢した。
「貴方の元に届いた、私宛の手紙には、本来禰豆子さんの気配をどうするべきか、という相談のみが書かれていた様です。しかし、竈門君の気配を変える様にという指示に書き換えられていた。私に直接届いた手紙には違う内容が書かれています。もし、私が貴方の手紙の指示通りに行動していれば、鬼は竈門君の後を追えてしまった。⋯⋯実を言うと、人間は鬼の気配を辿る事が出来ますが、逆は極めて難しい。⋯⋯この方からも話を聞いてください」
彼女は立ち上がり、カーテンを閉め切ると、奥の部屋を開けた。愈史郎が姿を表した。
「正直、火憐さんの仲介が無ければ、信用出来ませんでした。ですが、この方は嘘を吐いていない。生まれてから一度も人を喰わずに生きている。⋯⋯信頼出来ます」
「久し振りだな」
愈史郎は、一応冨岡に挨拶し、表情を険しくした。
「鬼は人間の病気⋯⋯特に遺伝子の病気を見分ける事には長けている。だが、個人を特定するには、余程の目印が無ければ難しい。大抵は外見だ。それよりも、炭治郎の場合、妹の気配を辿られる可能性の方が高い」