第65章 If〜煉獄さんが夢主を継子にしていたら〜
煉獄は、日輪刀の鞘で、思い切り父親の首の後ろを殴り付けた。
「師範!」
火憐は驚いた様子で声を上げた。彼女は、髪も、上半身もずぶ濡れになっていた。
「宇那手、何があった!」
「桶に顔を押し付けられただけです。⋯⋯呼吸を使えなければ、私はただの女です。意識が朦朧としていて⋯⋯気付いたら⋯⋯」
「よもや、この様な状態になっていたとは! 父上は何時から君に手を上げる様になった?」
「来た頃には既に。師範のお戻りが遅い時には、特にお酒の量が増え、この様な状態に⋯⋯。その内病気になってしまわれるのではと、心配で⋯⋯」
「心配なのは、君だ。口吸い以上の事は?!」
「⋯⋯は?」
火憐は、意味が分からず、首を傾げた。水に浸けられたり、殴られた事よりも、口吸い程度の事を心配されるのは、理解出来なかった。
「あ⋯⋯あの──」
彼女が必死に言葉を探している側から、煉獄は火憐の唇を塞いだ。
彼女は、ただ戸惑うばかりで、他に何の反応も示さなかった。煉獄は火憐の両肩に手を置いて、特徴的な瞳で見詰めた。
「君は好いてもいない男に、こんな事をされても、何も感じないのか? いや⋯⋯君をそんな風にしてしまったのは──」
「師範の事は好いています。ですが、急にの事で、反応出来ませんでした。それよりもお父様を──」
「元柱がこの程度で死ぬはずもない! 来るんだ!」
煉獄は火憐の手首を掴んで引っ張った。理解し難い胸の高鳴りが、彼を支配していた。火憐は、確かに好いていると言った。
煉獄は、火憐を自室に連れ込み、乱暴に上着を脱がせると、頭に手ぬぐいを置いた。ようやく理解が及んだのか、火憐は顔を赤らめて胸を隠した。
「師範、何のつもりですか?!」