第65章 If〜煉獄さんが夢主を継子にしていたら〜
「仕方ない! お前では父上を止める事は出来なかった! 問題は、宇那手、君にある! 何故本気を出さなかった?」
「師範のお父様が、深く傷付いている事は、察しております。私は⋯⋯ただ寄り添いたかったのです。師範や甘露寺様がそうしてくださった様に⋯⋯少しでも⋯⋯心を取り戻す手助けが出来れば⋯⋯と⋯⋯。力が及ばず、申し訳ございません」
「⋯⋯君は悪くない」
煉獄は、珍しく肩を落とした。
「顔が腫れているぞ。すぐに冷やしなさい!」
「ですが、槇寿郎様のお怪我が──」
「良い。俺が行く! 君は顔を冷やしなさい! 早く!」
「かしこまりました」
火憐はポロポロ涙を溢しながら、踵を返した。
煉獄は、荒れている父に寄り添う事もせず、千寿郎に視線を向けた。
「宇那手は──」
「母上に似ています。⋯⋯気付いていました。だから、父上も余計に⋯⋯。酷いです。だけど⋯⋯心の奥底で、兄上を案じている事も分かりました」
千寿郎は兄の手を握った。
「父上は、宇那手さんに、兄上の盾となって死ねと言いました」
「よもや、そんなことを!」
煉獄は怒りに駆られて言葉を失った。最近の槇寿郎の言動は、最早看過出来ない状態になっている。煉獄だけが知っていることだが、火憐は、産屋敷家の血を引く人間で、守り、育て、才能の限界を見極めなければいけない存在だ。
「兄上。このままでは、宇那手さんが死んでしまいます!」
千寿郎の訴えに、煉獄は決断した。火憐を水柱に預けよう、と。冨岡も寡黙で、何を考えているか分からない部分がある。しかし、少なくとも火憐に手をあげたりはしないはずだ。
「宇那手の様子を見てくる。お前はもう寝なさい」
煉獄は弟に命じると、縁側に飛び出した。
(父上?!)
泥酔していた父の姿も無かった。嫌な予感がして、井戸に駆け付け、彼は心の底が冷える感覚を味わった。
火憐は、槇寿郎に無理矢理抱き寄せられ、口吸いをされていた。槇寿郎が相当な力で首を抑えているせいで、火憐が無理矢理動かせば骨が折れてしまう状態だった。