第64章 赤と青
「また、あいつに会いに行くの?! それは駄目だよ!!」
「落ち着いて」
火憐は時透の頬に手を置いた。
「会いには行きません。鬼舞辻が人間としての拠点を置いている、浅草へ手紙を出します。もし、その方法が上手く行かなければ、鴉を一体犠牲にしてしまいますが、やはり手紙で伝えます。どのみち、私の首を刺した男のせいで、鬼殺隊士が一般的に鴉を使用している事はバレています。此方に痛手はありません」
「鬼舞辻が直接此処へ来る可能性は無いの?」
「ありません。あいつは臆病者です。戦国の時代、鬼舞辻をあと一歩の所まで追い詰めた剣士がいました。鬼舞辻は、その剣士が死ぬまで、一際姿を見せなかったと聞きます。あいつは、私の力量をある程度見極めています。上弦ノ弐の首を単独で落とし掛けた事も、複数の呼吸を使える事も。鬼舞辻は、手ずから産屋敷⋯⋯お館様を殺したいと思っている。お館様より先に、私を殺そうとはしません。その危険は冒さない。問題は⋯⋯」
火憐は目を閉じた。
「鬼舞辻が私を軽んじていない事。上弦ノ弐の首を斬りかけた私に、柱二名。日の呼吸の使い手の、竈門君。私たちを殺すために、最善の道を取るか、戦力を温存するか、分からない。私たちは、温存の道を選びました。他に柱は来ない。生き残らせる。でも、鬼舞辻が上弦の鬼を全員送って寄越したら──」
「大丈夫だと思う」
時透は、久し振りに物事を深く考えた。生き残る為に必要だと感じたからだ。
「鬼舞辻無惨が臆病者なら、自分の駒を一つ残らず失う様な動きはしないよ。もし万が一、身を隠す必要が出た時に、代わりを務めるやつが必要。上弦ノ壱は来ない。来ても、詰腹を切らされる参まで。柱が、一人一匹殺せば良い。姉さんが参と戦ってくれるよね? 僕と甘露寺さんで雑魚を片付けて、すぐに助けに行くから、心配しないで。その為に、早く身体を治してね」
「うん」
火憐は、短く返した。時透が、あまりに淡々と語るので、上弦を斬ることが、簡単なことに思えて来たのだ。
「ありがとう。分かった。ちゃんと休むから、力を貸して」