第64章 赤と青
火憐は大人しく目を閉じた。時透は、叫び出したい衝動に襲われて、前屈みになった。
(取り戻したい! 失くしたものを全部!! こんな不安定な状態じゃなくて⋯⋯もっとしっかりしないと⋯⋯)
「やっぱり、一緒に寝ましょうか」
気配を察知したのか、火憐は苦笑して、時透の頭を撫でた。
「どうぞ、隣へ」
「嫌じゃないの? 分かってるでしょう? 僕が貴女を困らせ様としていたこと」
「心配してくれた事も分かっています。弟が出来たみたいで、嬉しいですよ」
「弟⋯⋯」
何処か懐かしい言葉の響きに、時透は目を伏せた。そして、火憐にしがみついた。
「じゃあ、姉さんって呼んでも良い? そうすれば、冨岡さんも妬かないだろうし⋯⋯ううん。僕がそう呼びたい」
「勿論良いですよ。それから、少し話をしましょう。本題です」
火憐は時透の肩まで布団を被せながら、落ち着いた声色で続ける。
「私が、上弦ノ参に竈門君の気配を辿らせて、鬼を此処へ誘き出す算段でいる事は覚えていますか?」
「うん」
「私は竈門君の気配を変えるお守りと札を開発しています。もう間も無く完成し、胡蝶さんが仕上げてくれるはず。上弦ノ参は、最悪あとを追えないでしょう。その場合、猗窩座は大きな失敗を二度犯した事になります。煉獄さんの時と、今回。⋯⋯私は鬼舞辻無惨が、上弦の鬼をどの様に扱うか、見極めたい。下弦と異なり、上弦と同等の力を持った鬼を作るのは、非常に難しいです。時間も、血の量も多く掛かります。下弦と同様に切り捨てるか、それとも罰を与えるにとどまるか。鬼舞辻の精神の幼稚さを見極めたい」
「待って。それじゃあ、計画が成立しない。鬼が此処へ来れない」
「折を見て、私が情報を流します。無惨は、より私を信頼し、懐に招き入れるはず。でも信じて欲しい。私は必ず鬼を裏切る」