第64章 赤と青
「約束します! だから、足は折らないで! ⋯⋯時透君、どうしたの? 少し、こ⋯⋯怖いよ?」
「特別だから」
時透は火憐の前髪を指に巻きつけて、弄んだ。
「どうでも良い人に、こんな事は言わない。時間も割かない。貴女は特別だから。⋯⋯うーん。僕も眠くなって来た」
彼は勝手に布団に潜り込んで、火憐に頬を寄せた。
「待って、時透君! 流石に一緒に寝るのは──」
「一人で眠れないんでしょう? ただの添い寝だから安心して」
「いや、添い寝って──」
「それとも何? することしないと、寝れないって言うの? 僕は構わないけど──」
「もう寝る!」
火憐は、時透に背を向けて身体を丸めた。
(馬鹿な人)
時透は、自分よりも小さな背中を見詰めた。
(年下でも、僕の方が上背がある。単純な筋力だって、僕の方が上だ。その気になれば⋯⋯)
「ねえ、火憐さん。灯りを消さなくて良いの?」
「消さないで」
火憐は、消え入りそうな声で答えた。
「部屋が暗いと対応が遅れます。暗闇の中では、鬼の方が有利」
「消すよ」
時透は布団を出た。
「だから熟睡出来ないんだよ。大丈夫。貴女の読みが正しいなら、鬼はまだ来ない。それに、今は柱が三人いる。柱の命と、里長の命は最優先。絶対に守るから」
言葉を聞きながら、火憐は寝返りを打った。まるで子供に戻った様な気分だ。天井の模様一つが鬼の目に見えて震えが奔った。
「時透君⋯⋯いえ、時透さん」
「別に好きに呼んで良いよ。貴女の方が年上だし。名前でも良い」
「名前⋯⋯」
(時透君は確か双子だったのよね⋯⋯。だから、弟でも、一郎なんだ⋯⋯)
「ねえ、無一郎君は、どうして無⋯⋯なんだろう。何か意味があるのかな?」