第64章 赤と青
「うん、分かった」
そう答えて、時透は真っ直ぐ布団へ向かうと、枕を退けて座った。
「⋯⋯え?」
火憐が首を傾げると、時透は嫌な笑みを浮かべた。
「貴女の継子、寝不足だよね? 貴女がちゃんと眠れていないからでしょう? ほら、早くこっちへ来てよ。僕の膝で寝かし付けてあげるから」
「う⋯⋯うん⋯⋯」
(これは浮気に入るの?! まだ子どもだけど⋯⋯でも家族じゃないし⋯⋯)
火憐は、戸惑いながらも、羽織を脱いで布団に入った。
「じゃあ、色々教えてくれる?」
時透は火憐の顔を覗き込んだ。
「どうして貴女の身体は毒塗れなの? 最後に襲われたのは、お館様のお屋敷だよね? どうしてこんな状態になっているの?」
「⋯⋯鬼舞辻が、人間用の毒を開発していると知ったから」
火憐は、端正な顔立ちにどきどきしながら、ぎこちなく答えた。
「上弦の鬼の集会に呼ばれた時、鬼舞辻は薬の開発をしていた。私に見せた調合表は、鬼の身体を強靭にする為の物だったけれど、その裏にあったのは、対人用の毒の調合表だった。私はそれを全て記憶しました。私の体に蓄積されているのは、その毒に対する治療薬です。つまり、鬼が私を傷付け、毒を打ち込む程、体内の薬が消費され、私は強くなる。今は投薬を開始したばかりなので、副作用が出ています。元々体に蓄積していた、鬼用の毒との相性も悪かった。改良が済み次第、柱の皆様にも、解毒剤を携帯していただくつもりです」
「そんなの、戦えない隊士に任せれば良いのに。ねえ、分かってる?」
時透は、火憐の顔を両手で包んだ。
「柱の代わりはいないの。甲の階級の隊士は一人もいない。宇髄さんの代わりがいないでしょう? 死んだら、どうするの? お館様に心労をお掛けして、殺すつもり? ねえ、火憐さん。僕、なんでだろう。凄く怒ってる」
彼は前屈みになって真っ直ぐ瞳を捉えた。
「戦いの最中ならともかく、貴女は休むべきだ。大人しく従えないなら、足の骨を折ろうか? 僕、一応男だし、出来るよ? どうする? 今晩から、大人しく休むって約束出来る?」