第64章 赤と青
「⋯⋯そうでしたね」
火憐は、少し心にゆとりを取り戻して、微笑んだ。
「信用しています。でも、心配でした。もう誰も死なせたく無いから」
「考えが甘い」
時透は、スッと目を細めた。
「そんな風に考えるから、不安になる。犠牲は付き物。強大な敵を相手にすれば、弱い人間が死ぬのは当然。僕が死んだら、僕が弱かっただけのこと。火憐さんが、気に病む必要は無いし、その可能性を想定して、不安になる必要も無い。貴女は優しいから苦しんでいる。冨岡さんだけ守れれば良いって、考えたらどう?」
「嫌!!」
火憐は、時透を抱きしめた。上背は彼の方があったが、顔立ちはまだ幼く、何処からどう見ても子供だった。
「嫌⋯⋯。そんな風には思えない!! 貴方も失いたくない!! ⋯⋯私、もっと強くなるから、私の甘さを許して!! この不安が無くなるくらい、もっと鍛錬に励みます!! 絶対に貴方達を死なせない!!」
「駄目だよ、火憐さん。貴女の身体、もう限界でしょう?」
時透は冷静に、火憐の状態を見抜いていた。
「全身に変な毒が回ってる。今日も鍛錬した? 腕の筋を痛めてる。肩も。どうして動けているのか、不思議なくらい」
「童磨に痛め付けられた時に比べれば──」
「狂ってる」
時透は、火憐の髪を乱暴に引っ張った。
「い⋯⋯痛っ」
「貴女がやるべき事は、一週間布団にいる事だよね? お館様も、その為に貴女を此処に送ったんでしょう? さあ、布団へ行こう」
「分かった! 分かったから、離して!!」
火憐は、なんとか腕を振り解いた。
「布団へ行くから、眠るまで話に付き合ってくれる? 貴方に色々と話しておきたい」