第64章 赤と青
火憐は昼食後、何事も無かった様な顔で桜里と稽古に励んだ。結果的に、火憐は大岩を砕かず、移動させられる様になった。
夕方には温泉で汗を流し、豪勢な夕食をいただいて横になっていると、甘露寺と時透が部屋へ押し掛けて来た。
「宇那手ちゃん、大丈夫?! 顔色が良くないわよ!」
甘露寺は火憐にしがみついた。火憐は、むしろ時透が気になり、彼に目を向けた。
「大丈夫? 倒れたって聞いたけれど」
「大丈夫。ねえ、火憐さん、少し二人でお話出来ない?」
「構いません。甘露寺さん、席を外していただけますか?」
「わ⋯⋯私は良いけれど⋯⋯その⋯⋯時透君は、一応男の子だし──」
「何を考えているの、甘露寺さん」
時透は、冷ややかな視線を甘露寺に向けた。
「僕はまだ十四歳の子供なんだけど」
「う⋯⋯分かったわ。でも、後で様子を見に来るから!」
甘露寺は仕方なく引き下がった。
二人きりになった途端、時透は素早く動き火憐の腕を掴んだ。そのまま押し倒そうとしたが、火憐の反射速度が上回っていた。
「何の真似です?」
時透を押さえつけ、火憐は問いただした。彼からは全く悪意を感じられなかった。
「火憐さん、何を怯えているの?」
時透はゆっくり体を起こした。
「僕は鬼殺隊の中で一番反射神経が良いんだ。貴女はそれを上回っていた。こんなに強いのに、何を恐れているの? 僕の心配? 安心して」
彼は火憐の手を握った。
「立ちくらみが起きたのは、記憶が戻り掛けたから。貴女の手紙のお陰で、僕は自分の一部を取り戻すことが出来た。悪いことじゃないんです。戦いの途中なら、深く考えもしなかったから、同じ事は起こらない。信用してよ。僕の方が、柱としては先輩なんだよ?」