第63章 冷たい愛
「今日はお互い休もう? 夜には甘露寺さんが来てくれるから、興味があったら話し掛けてみてね。優しい人だから、手合わせもしてくれると思うわ」
そう言って一歩踏み出した瞬間、火憐は目眩を覚えてふらついた。
(⋯⋯副作用? 投薬は最低限に抑えたはずなのに。飲み合わせの問題?)
彼女が鬼用に処方した毒は、胡蝶が服用している物よりも、未知の物だった。
(今なら中断しても、離脱症状が出ない。だけど、毒の蓄積が遅くなる⋯⋯。でも、竈門君が回復するまでに、副作用が無くなるなら⋯⋯。でも、この不完全な状態で、どの程度戦えるの?)
不安と動揺が、火憐の心を蝕んで行った。
「火憐さん?」
玄弥の呼び掛けは、火憐に届かなかった。彼女は既に前を向いて歩き出しており、数ヶ月先の事を考えていた。
(藤の毒を中断しよう。どのみち、胡蝶さんが童磨に使えば、鬼舞辻には通用しない。出来る事をやらなければ。生きて⋯⋯いたいのなら)
死ぬのは簡単だ。一等鍛え上げられた刀を首に当てれば良い。すぐに楽になれる。
それでも、火憐は、生きる道を選んだ。他の誰でもない、自分の意思で。