第63章 冷たい愛
「火憐さんは、出来ないんですか?」
「出来ないというか⋯⋯私の場合⋯⋯」
火憐は右腕を伸ばし岩をグッと押した。瞬間、大岩は木っ端微塵に砕けてしまった。
「どうも力の入れ具合がおかしいらしく、こうなってしまいます。鬼の頭骨を砕くのに、加減は必要無いので放置していましたが、腕力を鍛えたいので、努力してみます」
玄弥は、自身の未熟さを悟ると同時に、鬼殺隊の柱が、異常な能力の持ち主ばかりである事を悟った。人の領分を超えない者が、手に入れられる地位では無いのだ。
「あら?」
火憐は鴉が頭の上に舞い降りたので、視線を上に向けた。
「冨岡さんの鴉ですね? 何かあったのでしょうか?」
寛三郎は、ヘトヘトになりながら、二通の手紙を火憐に託した。
「玄弥君。お兄さんからです」
彼女は一通を玄弥に手渡し、もう一通に目を通した。
(時透君が?!)
手紙には、時透が体調を崩し、刀鍛冶の里で療養する旨と、最終選別に、祐司と環が合格した事が綴られていた。
(今回と前回の合格者は、無惨討伐の前線には出せない。何か別の役割を与えないと⋯⋯。今から隠としての訓練が間に合う? それに⋯⋯)
正直、火憐は時透の戦力をかなりあてにしていた。彼は正真正銘の天才だ。冷静沈着な性格で、予期せぬ何かが起こっても、十分対処出来ると考えていた。
(⋯⋯嫌だ、嘘)
火憐は、全身が震えるのを感じた。忘れていたはずの恐怖が蘇って来たのだ。
(私が⋯⋯私がしくじったら、大変な事になる⋯⋯。代わりがいない⋯⋯。玄弥君と竈門君、両方を守れる? 竈門君は絶対逃げずに戦おうとするはず。私の指示が通らないかもしれない⋯⋯。どうしよう⋯⋯どうしたら⋯⋯。嗚呼⋯⋯私、誰も信用していないんだ⋯⋯。駄目⋯⋯私が殺されたら士気が低下する!!)