第62章 最悪の集会
「時透、落ち着け」
伊黒は、自身も深呼吸をしつつ、年下の少年を宥めた。
「そうか⋯⋯。人を惹きつける力⋯⋯。火憐も特別な人間なのか」
「私、宇那手ちゃんと稽古をします!! 担当地区で何か起きない限り、ずっと」
甘露寺は真剣な面持ちで頷いた。しかし、冨岡は難色を示した。
「宇那手に休息が必要なのも、事実だ。ただでさえ、継子の桜里と、玄弥の世話に追われている。その上薬の開発に、刀鍛冶の里でも何やら内密に動いている様だ」
「玄弥?」
不死川が眉間に皺を寄せた瞬間、彼の肩に鴉が舞い降りた。手紙を携えており、当然全員が注目した。火憐からの物だった。
──玄弥君の身柄は当分お預かりします。悲鳴嶼さんにも、鴉を飛ばしました。私は猟師でしたので、銃の扱いを指導出来ます。
──上弦の鬼との戦闘を想定していますが、傍に置く限り、命を懸けて守ると誓います。
──実弥さん。貴方の気持ちは、何一つ伝わっていません。貴方の背中を一心に追い掛け、柱を目指している玄弥君には、言葉の裏にある想いを汲み取る余裕が無いのです。
──貴方にも分かるはず。たった一人、生き残った家族が、命懸けで戦っていると知ったら、黙ってはいられないはすです。例え貴方が否定しても、玄弥君は戦い続けます。私に出来る事は、彼を鍛え上げ、生き残る力を身に付けさせること。
──言葉は、届かなくなってから叫んでも遅いのです。私は間に合いませんでした。きっと、冨岡さんから、お話を聞いている頃だと思います。私は母に、恨言の一つも言えず、死に別れてしまいました。私が生まれ付き強靭な身体を持っていた事、普通の女として生きる事に堪えられなかったこと。ありふれた日常に、虚しさを感じていたこと。何一つ本音を伝えられませんでした。
──貴方は、間に合います。短くても、一言でも良い。手紙を書いてあげてください。恨言でも良いんです。貴方が玄弥君の為に時間を割いた事に意味があります。
──どうかお願いします。玄弥君や、貴方の苦しむ姿を想像すると、悲しくて、涙が溢れて来ます。たった二人の兄弟です。憎しみ合っていない二人が、すれ違い続ける様が、辛くて仕方がありません。