第10章 不死川実弥
屋敷の敷地内に入ると、冨岡は宇那手の手を離した。
「俺はここにいる。お館様は、お前と二人で話がしたいそうだ」
「承知いたしました。行って参ります」
宇那手は、きちんと頭を下げて、案内係の隠に従った。
少し進んでから、彼女は口を開いた。
「胡蝶様のお屋敷にいた方ですよね? 炭次郎様のご様子はどうでしょうか?」
「覚えていてくださったのですか?!」
女性は驚いた様子で振り返った。そして、慌てて前を向き頭を下げた。隠は継子よりも立場が低いのだ。
「失礼しました! 骨折が完治していませんので、鍛錬には参加しておりません。同期の方とは仲良くされている様です。元気に過ごしております」
「そうですか。戦線復帰の見込みがある様で、何よりです。師範が命を張って守ったのですから、頑張っていただかないと」
宇那手が複雑な感情を込めて返すと、隠は素早くその場に膝を着いた。
「不死川様!」
宇那手も、柱の存在に気が付き、慌てて膝を着いた。
「先日は、師範共々無礼を働き、大変申し訳ございませんでした」
「⋯⋯いや」
不死川も、虚を突かれて言葉に詰まった。これほど礼儀正しく言葉を掛けられたのは、久し振りだった。
彼は意図的に粗暴な振る舞いをしており、そのせいで柱以下の隊士にも良い感情を抱かれていなかったのだ。
しかし、宇那手からは、嘘偽りの気配が無い。
「テメェにとっては、災難だったろう」
「いえ。面識はありませんでしたが、竈門兄妹の件については、以前から聞かされていました。師範は、炭次郎様を継子にする可能性があると申しておりましたので。⋯⋯失礼」
宇那手は、目にも止まらぬ速さで手を伸ばし、不死川の左腕を掴んだ。
「やはり手当てをされていませんね」
彼女は、羽織の袖から包帯を取り出した。
「⋯⋯貴方の行動は軽率でした」
柱を批判する言葉に、隠は縮み上がった。不死川も怒鳴り返しそうになったが、憂いを帯びた宇那手の顔を見て、思い止まった。