第62章 最悪の集会

「人の屋敷で騒ぐな、ゴミカス」

　伊黒は、冨岡と不死川の両方を木刀で殴った。それから、不死川に目を向けた。

「お前、宇那手が好きなのか」

「だったら何だ」

「冨岡の肩を持つのは、反吐が出る思いだが、止めておけ。人の女に手を出すな。人の女を取ろうとするな。色目を使うな。好意を断ち切れ。不愉快極まりない。宇那手の意思を尊重しろ。お前は完全に邪魔な存在だ」

「なっ⋯⋯」

　不死川は、かつて無い嫌味を言われ、言葉を失った。しかし、文句は言えなかった。何故なら常日頃、その手の言葉を冨岡にぶつけて来たからだ。

　言うのは構わないが、言われるのは堪えられないなどと、口が裂けても言えなかった。それこそ子供の我儘だ。

「あれえ？！　不死川さん？！　冨岡さんも！！」

　突然、甲高い女の声が響いた。甘露寺が時透と悲鳴嶼を連れてやって来たのだ。これで、胡蝶と火憐以外の柱が集結してしまった。

「⋯⋯俺の屋敷を集会所にするな」

　伊黒は小声で文句を言ったが、甘露寺の手前強くは出られなかった。

「私、今晩宇那手ちゃんに会いに行くって話をしたら、悲鳴嶼さんが相談したい事があるって⋯⋯」

　甘露寺は悲鳴嶼に目を向けた。彼は手を合わせたまま、俯いた。

「見ての通り、今日は全員が非番だ。胡蝶は屋敷で作業をしている。柱の誰一人として、お館様の警備を担当していない」

「その件については、以前から疑問に思っていた」

　伊黒は腕を組み、他の面々を見回した。

「火憐が現れる以前、お館様はご自分に、護衛を付けることは無かった。そして、火憐が刀鍛冶の里へ行った途端、警備が解かれた。俺たちは、火憐の護衛をしていたんじゃないか？」