第61章 立場※
「⋯⋯そういえば、あの子の過去を聞いていなかった」
火憐は、消えた背中の方へ視線を向けた。
「何を抱えているんでしょう? どうして⋯⋯戦線復帰を⋯⋯?」
「お前が人たらしだからだ」
冨岡は溜息混じりに答えた。
「性別問わず、お前は人の心を惹きつける。同じ気配がしたぞ。俺を追い掛けて来たお前と」
「褒められているんでしょうか?」
「そうだ。⋯⋯少しは俺の気持ちが分かったか? あの女性隊士はお前の為に命を差し出すと言った」
「⋯⋯ああ」
火憐は胸に手を当てた。
「ごめんなさい。確かに辛いですね。守るべき存在に、命を差し出されるのは。重たいです。あの子を死なせない様に、私は細心の注意を払わないと」
桜里が、どれほど努力しても、自分に及ばない事は、火憐にも分かっていた。だからといって、盾にするつもりは無い。
人には其々役割があるのだ。彼女には、生きて、別の道で貢献する様に、言い聞かせる必要があると感じた。