第61章 立場※
火憐は、玄弥の両肩に手を置いた。
「君の中には、他に選択肢が無いはず。出来る出来ないでは無く、やるか、やらないかです。君が本気なら、私も力を貸せる。呼吸が使えなくても、剣術を極めれば、それだけで鬼の首は斬れます。私は、銃の扱いも指導できます。やりますか?」
「やります!!」
「よろしい。貴方は特別な体質を与えられた、特別な存在です。柱になる為の条件は満たせるはず。協力しますよ。一先ず、今日、明日はキチンと寝て休むこと。食事も三食摂りなさい。それから」
火憐は、花が綻ぶ様に、嫋やかな笑みを浮かべた、
「襖を開ける前には声を掛ける様に。柱も、任務と鍛錬の時間外は、個人的な事をしていますので」
「はい! 失礼しました!」
玄弥は顔を真っ赤にして頭を下げ、嵐の様に部屋を立ち去った。
「あれだけ元気なら大丈夫ですね」
「あいつと風呂に入ったのか?」
「少し黙ってください」
火憐は冨岡に苛々とした笑みを向けると、タイプライターを机の上に置いた。
「慣れない言語を使用しますので、集中させてください」
──A REAGENT. THE DRUG TAKES EFFECT AFTER 10 SECONDS. IT TOOK 35 SECOND TO RECOVER.
火憐は同じ内容の物を二通書き、和紙で丁寧に包んだ薬瓶に括り付けた。
「茶々丸、近くにいる?」
ニャーと声が響き、猫が姿を現した。
「この手紙を届けたら、暫く竈門君の所にいてね。彼がこっちに来たら、着いて来て」
火憐は慎重に背負い袋に荷物を入れて、猫の喉を撫でた。
「何時もありがとう」
労いの言葉を掛けてやると、猫は満足そうに鳴き、姿を消した。
そしてもう一方の手紙を、傍にやって来た鴉の足に括り付けた。
「薬をそのまま送るのは危険ではないか?」
冨岡の言葉に、火憐は薄ら笑みを浮かべた。
「此方の中身は水です。ですが、珠世様と情報交換をされている胡蝶様なら、この瓶が元々何に使われていたか分かるはず」
鴉は、少し苦労して飛び去った。